読売新聞オンライン

メニュー

「プライド捨てられるか」現場監督として、拾ってくれた社長もトラOB…元阪神・仲田幸司の半生<5>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

元阪神・仲田幸司の半生をすべて読むならこちら

 仲田幸司(57)が、 地業ちぎょう と呼ばれる基礎工事を請け負う山河企画(本社・大阪市)の現場で働き始めたのは、2010年だった。誘ったのは、社長の西浦丈夫(64)。自身も阪神OBで、仲田の新人時代から人柄の良さに引かれ、交流してきた。

 野球解説などの仕事が途絶えた06年以降、仲田は固定収入を失った。野球教室や講演が年に何度もあるわけではない。10年から始めた工事現場の仕事も、ずっとアルバイト程度だったが、西浦は2年前、生活が苦しそうな仲田に、本腰を入れるよう持ちかけた。

 「プライドは捨てられるか。後ろ(過去)を振り向いても何もないぞ。大変な仕事だが、他にないのならどうだ?」

 正社員となった仲田は週6日、電車で現場に向かう。現場監督として5人ほどの作業員とチームを組み、主に関西各地を回る。手がけるのは病院やマンション、学校など。6月、堺市の現場では、ダンプカーが1日130台以上も出入りし、息つく間もないほど差配に追われた。帰りが午後11時になる時もある。

 「最初は憂うつだった」と明かす。工具の名称が覚えられず、「いい加減にしろ」とどなられた。ミスの度に「野球しか知らん」「本当に落ちぶれたな」と作業員にため息をつかれた。

社長の西浦(右)と談笑する仲田=杉本昌大撮影
社長の西浦(右)と談笑する仲田=杉本昌大撮影

 だが、酒に逃げた以前の姿は、もうない。「社長の顔に泥を塗るわけにはいかない」。西浦は「遅刻はゼロ。二軍経験しかない私でも、最初は働く姿を知人に見られたらと思うと嫌だった。ましてや、あいつだったら。たいしたもの」と感心する。

 同僚から「マイク、伝えて」と、元請け業者に意見を言うよう頼まれる機会も増えた。こんな時、人懐っこい笑顔が生きる。西浦は「人柄がいいから、現場はなごむ。だから、けがもない」と信頼する。

 少年期、米国人の実父を持つ出自から、差別に遭った。級友が手を差し伸べてくれ、野球と出会って救われた。そして今、2度目の窮地からはい上がろうとしている。時々、考える。自らの濃密な実体験を生かす場所はないか、と。それは、やはり野球に行き着く。

 「高校から甲子園で投げ続け、今は現場に立っている。日々、感謝しながら、目の前の仕事に必死で取り組んでいる。でも、将来は高校野球を指導したい。『野球が終わって、人生が終わったと思ってほしくない。きっと誰かが見ていてくれるよ』と伝えられたら」

 あと3年で還暦を迎える。大器晩成の現役時代を追うように、マイクはゆっくりと歩き始める。(敬称略)(おわり。この連載は中村孝が担当しました)

無断転載・複製を禁じます
2183506 0 プロ野球 2021/07/06 15:00:00 2021/07/06 18:03:42 元阪神・仲田幸司氏の連載用、山河企画の西浦丈夫社長(右)と談笑する元阪神・仲田幸司氏(15日、大阪市西区で)=杉本昌大撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210706-OYT1I50082-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)