山あいの町に県外からも部員が集まる…広島・県立佐伯高の女子硬式野球部は「地域の希望」
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女子野球が盛り上がっている。彼女たちはどんな思いを抱き、何を目指して白球を追うのか。女子野球に関わる人たちを紹介する。
部員たちが運営もSNSも
広島県廿日市市の市街地から車で約30分の山あいに、県立佐伯高はある。周辺は田園が広がり、冬は雪に覆われる。女子硬式野球部副主将の中島
中学の軟式野球大会で広島を訪れた時、佐伯高の部員が献身的に運営を手伝う姿に感動した。
部員はフェイスブックやツイッターなど専用SNSを作り、積極的に投稿してPRしていた。そこで見た野球への情熱を込めたメッセージ、絆で結ばれている様子に魅力を感じた。

遠く離れた地方への進学にも、親は「行ってこい」と背中を押してくれた。1年後に妹の
創設時の部員は2人
2015年、広島県内初の女子硬式野球部として部員2人で創部。背景には学校の存続問題があった。過疎化で減少した生徒数は、80人を切る可能性が高まっていた。80人は2年連続で下回ると統廃合の検討対象となるラインだ。野球を続けたい女子選手の進路は全国でも少ない。その受け皿となることに、学校と住民は活性化の活路を見いだそうとした。
地域の公立校を支えようと、街ぐるみの後押しが始まった。県外出身の部員のために同窓会長らが地域を回り、4件の下宿先を確保した。朝夕食付き(平日)で月6万円。中島姉妹ら6人を受け入れている沼座暢夫さん(75)は「孫のよう」と目を細め、妻の直子さん(70)も「元気をもらえる」と話す。
女子野球タウン認定、地元企業も応援
その後、県内の高校に女子野球部が新設され、部員数が減った時期もあった。そこに追い風が吹く。全日本女子野球連盟が20年9月、普及に協力する自治体にイベント開催支援などを行う「女子野球タウン認定事業」を開始した。廿日市市は同年末に認定を得て、支援をさらに充実させた。月2万円だった下宿代の補助を3万円に増額。地元企業はグラウンドの黒土や照明設備を提供した。
同市教育委員会の新中安幸・スポーツ推進担当課長は「地域の希望の光として佐伯高の役割は大きい。女子が野球を続け、みんなが応援できるようになれば楽しい街になる」と期待する。
創部から約7年、公式戦で未勝利。「練習量は強豪に劣らない」と言う犬塚慧監督は勝負に執着せず、選手が自ら考えて行動するチーム作りを掲げる。練習計画班、広報班など4班に分かれ、チームのために働く。
グラウンドの外でも全力
野球だけでなく勉強にも力を入れ、昨年度は部員4人が国公立大に進学した。グラウンドの外でも全力を尽くす姿が海外の生徒も引きつけた。ソフトボールU18(18歳以下)台湾代表・チューイーシュエン(16)は指導者らの勧めもあって佐伯高に憧れ、留学する予定だ。
「夢は全国大会で私立の強豪校を倒すことです」。中島姉妹は部の魅力を発信する側になり、昨年10月にメッセージ動画をSNSに投稿した。生徒数は昨年度88人、今年度76人だが、女子野球部は今春、多くの新入生部員を見込む。
女子硬式野球部がある全国43校中、公立校はわずか4校。佐伯高は地域を照らしている。(中村孝)
女子野球タウンとは
全日本女子野球連盟が、競技を通して地域活性化を目指す自治体を公募し、普及活動やイベント開催などの計画を審査して認定する。自治体は「女子野球タウン」の名称をPRに活用でき、連盟は女子日本代表の派遣や情報提供などを通して支援する。現在は埼玉県加須市、佐賀県嬉野市など全国10自治体を認定。広島県廿日市市では昨年3月、日本代表を招いての野球教室を開催した。