学校外の体験が学びの場
学校教育になじめないけれどキラリと光るものがある子どもたちを支援しようと、2014年に始まった「異才発掘プロジェクトROCKET」。昨年末で開始から丸5年を迎え、1月13日に東京大学(東京都文京区)で報告会が行われました。「スカラー候補生」と呼ばれる、私たちと同世代の参加者たちは、プロジェクトを通じてどのように成長したのか、話を聞いてきました。
スカラー候補生127人
ROCKETは、東京大学先端科学技術研究センターと日本財団が企画し、2014年12月から始まりました。参加者は、スカラシップ(奨学金)を受けて才能を伸ばしていってほしいといった願いを込めて、「スカラー候補生」と呼ばれています。
候補生の多くは、集中すると周りが見えなくなる、予想外のことがあるとパニックを起こしてしまう、授業が物足りない、など様々な理由で学校教育になじめない子どもたち。応募できるのは小学3年生から中学3年生までで、14年から5年間で、数多くの応募者の中から、書類選考と面接で選ばれました。“卒業”はなく、現在、小学4年から大学2年の年齢までの127人のスカラー候補生がいるそうです。
300以上のプログラム
「候補生の探究心をかきたてる」ため、ROCKETでは、例えば、氷で火をおこす、外車を全て自分たちで修復する、1日1000円で最果ての地を目指す……といった特性に応じた内容や、芸術や建築、文学など各分野の第一線で活躍する人の講義など、様々なプログラムを企画。候補生はそれぞれ、希望のプログラムに志願して参加します。候補生が発案して実現したプログラムもあり、これまでに行ったプログラムは300以上あります。
当初からプロジェクトリーダーとして関わってきた同センター特任助教の福本理恵さん(38)は、「プログラムに参加することで、候補生たちは自分で選択し、責任を持つ機会が増える」と言います。そして、そうした体験をすることで自己肯定感が上がり、「一歩踏み出す力がついた」と感じているそうです。
報告会で登壇した候補生の姿に、福本さんの言葉を実感しました。1期生の濱口瑛士さん(17)は、絵を描くのは得意だけれど識字障害があり、小学6年からほとんど学校へ行かなくなりました。ROCKETに参加したことで、「全く未知の体験をするという、本当の学びができた」といいます。今は通信制高校に在籍し、「将来に不安もあるけど、考えても仕方がない」と自分の描いた絵を見せながら朗らかに話す姿が印象的でした。
ほかの候補生の母親からは、「以前は、誰かの言葉に悲観的に反応してすぐパニックになっていたけれど、参加して5年たち、揺るぎない強さのようなものを得たと感じています」という感想が出ていました。
終了後に直接話を聞いたスカラー候補生たちは、京都の茶室を巡る旅や、北海道で昆布を干す作業、炭窯作りといったプログラムに参加したそう。「先が見えず、パニックになることもあったけど、楽しみでワクワクした」「プロジェクトに参加するまでは、感情があることが苦しくてロボットになりたかったけど、今はつらいことも含めて気持ちを出してもいいと思うようになり、生活に色がついた」「ここでは自分が否定されない。世界が広がった」と口々に話してくれました。
寄付募り活動続ける
ROCKETは、開始から5年が過ぎ、日本財団からの資金提供が終了。今後は東大のクラウドファンディングで寄付を募るなどして、活動を続けていくといいます。また、日本各地で自治体などと連携して特色あるプログラムを企画し、学校教育と並行してより多くの子どもが参加できるよう裾野を広げていきたい、と福本さんは話していました。
今回の取材で、候補生たちが豊富な知識や経験を持っていることに驚きました。また、どのプログラムも興味深く、私たちも、学校だけでなく様々な場で学ぶ機会が増えるといいなと思いました。
(高2・山下礼雄、中2・池上花音、中1・竹中夏希、小5・池上颯記者)