包み、折り、結び 気持ち託す
入学や七五三などのとき、水引のついたご祝儀袋やのし袋でお祝いをもらった人もいるのでは? これらは、贈り物の包み方や結び方で気持ちを表す「折形」という礼儀作法にのっとっています。東京・銀座の「ATELIER MUJI GINZA(アトリエ・ムジ・ギンザ)」のギャラリーで開催された企画展で、「折形」について学びました。
企画展のタイトルは、「かたちときもち 吉の毎日」。展覧会の企画を担当している同ギャラリーシニアキュレーターの鈴木潤子さん(51)は、「別れと出会いの季節である春に、幸せな気持ちになれるように、と企画しました」と言います。
右上に「のし」を模したものが貼られたり、印刷されたりしているのし袋 折形は、神事と結びついています。折形を生活に取り入れてもらうため、展覧会や折形教室などを開いている「折形デザイン研究所」の山口信博さん(71)によると、私たちがよく見る「のし袋」や「のし紙」に描かれたり、付けられたりしている「のし」は、元々は神様にそなえる干しアワビを紙で包み、結んだもの。縁起物として、贈り物にのしを添えて贈るようになり、それが簡略化されて今の形になっているそうです。
室町からの伝統
贈り物を包み、折り、水引で結ぶ折形の作法は、室町時代に確立されました。会場には、江戸時代に出版された折形の辞書のような「包之記」「結之記」の版本や、見本のひな型も展示されています。
目を引くのは、お酒やタオルから、掛け時計、三輪車まで、様々なものを包み、結んだ折形の数々です。一見、全く違うようですが、どれもいくつかの約束事を守っているそう。
折りひだを3本つけて包まれた贈り物。最も格式が高い 例えば、包んでいる紙の折りひだの数。1本から3本までありますが、ひだの数が多いほど丁寧で、格が高いそうです。包んだり、ひだを作ったりする際には、紙に「刀を入れる」ことは縁起が悪いとして避け、切り込みを入れずに1枚の紙を折って使います。
言葉はなくても
結び方にも意味があります。水引の両端を引いても解けない「あわび結び」は、婚礼など、一生に一度が望ましい節目の贈り物に使います。災害や病気のお見舞いのときは、「繰り返さないように」という気持ちを込めて、固結びにします。
さらに、中国の「陰陽五行説」の考え方に基づき、丸いものや円筒形のものは、リボン結びの輪が一つだけの「かたわな結び」、タオルや箱など平らなものは、輪が二つある「もろわな結び」で結ぶ、といった決まりもあります。
こうして今に伝わる折形の約束事をお互いに知っていることで、「言葉にしなくても気持ちを伝えることができます」と山口さん。妻の美登利さん(65)も、「折形は単なるラッピングやパッケージではありません。包み、折り、結ぶという行為自体に気持ちを込め、心を表した形なのです」と説明してくれました。気持ちがこもったのし袋やご祝儀袋はなかなか捨てられませんが、山口さんは、「神社に持っていけばおたきあげしてくれますよ」とも教えてくれました。
現代的な形
気持ちを形に託し、贈り物に込めて伝える文化を知り、温かい気持ちになりました。会場では、現代の折形の例として、包み紙と色紙を重ね、少しずらしてのぞかせた色紙を水引に見立てたり、シールやトレーシングペーパーといった身近なものを使ったりした折形も展示されています。「正しいかどうかということを気にせず、ぜひ生活の中に折形を取り入れてみてほしい」という山口さんの言葉に、みんなうなずきました。
同展は、6月21日まで開催予定ですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在、ギャラリーは休館しています。今後については、同ギャラリーのホームページへ。
(中3・飯島ひかる、中2・久慈紗緒里、小6・中島あかね記者)