今 何をすべきか考えて
ワニの絵を描くきくちさん(本人提供) SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で昨年12月から今年3月にかけて連載された4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」。ワニが死ぬまでの何げない日常が描かれた作品は、大きな反響を呼びました。作者のきくちゆうきさん(33)に、作品に込めた思いを聞きました。
夢追い27歳で退職
ゲームに夢中になったり、アルバイト先の先輩に恋をしたり、漫画や映画の続編を楽しみにしたり、街角で赤ちゃんをこっそりあやしたり、態度の悪い駅員にいらついたり……。主人公のワニは、ごく普通の日常を送る若者です。
しかし、単なるほのぼのとした漫画ではありません。特徴的なのは、毎回、4コマ目の下に「死まであと○日」と、ワニが死ぬまでの日数が書かれていること。ワニ本人は自分の死など意識せずに暮らしているのに、読者にはワニがあとどれぐらいで死んでしまうかが分かっている、という独特の設定が注目を集め、連載終了後には書籍化もされました。
3日目は、4コマ目のワニのせりふが未来を知っている読者には重く響く。(c)STUDIO KIKUCHI 「100日後に死ぬワニ」(小学館)
25日目は、きくちさんが一番好きな回だそう。「用事がないけれど会っておしゃべりする友達との関係がいいなと思います」 (c)STUDIO KIKUCHI 「100日後に死ぬワニ」(小学館) 小さい頃から絵を描くのが好きだったきくちさんは、自分でキャラクターを作り、その良さを伝えるために漫画を描いて、SNSで公開していたそうです。高校卒業後は、アルバイトなどを経て24歳のときに就職しましたが、あるとき、「キャラクターの絵を描いて、本の挿絵やCDのジャケットなども描いてみたい」という夢が、会社に勤めていては時間がなくて実現できないということに気付き、27歳の時に退職しました。
「終わり」を意識
その後、同人誌即売などが行われるイベントでブースを出していた出版社の人に作品を見てもらい、プロデビューが決まったといいます。
「100日後に死ぬワニ」を描こうと思い立ったのは、昨年9月頃。「死」をテーマにしたのは、友人の死を経験したりして、自分がいつ死ぬのかと考えたことがあり、「いずれは誰もが死んでしまう。『終わり』を意識して、今、何をすべきか考えてほしいと思った」からだそう。「この作品が、いろんな人にとって終わりについて考えるきっかけになったなら、よかったと思う」と話します。
この漫画を描き始めるとき、主人公をワニにするかトカゲにするか悩みましたが、「どんなに強い生き物でも死んでしまう」ということを伝えたいと思い、ワニに決めました。
連載初日から反響があり、開始前は1万人ほどだったツイッターのフォロワーが、初日だけで1万人増えて倍に。最終日の100日目には、220万人にまで増えたそうです。
現実社会とリンク
また、大体の筋は決めていたものの、例えば、漫才日本一を決める番組がテレビで放送される日には、急きょ、漫画でも、ワニがお笑い番組を見ている話にするなど、内容を柔軟に変更。そのことで、読者はワニと同時代を生きているという感覚を味わうことができました。
100日目、ワニは、友達と約束していた花見の会場に向かう途中、通りがかりのヒヨコを助けて事故死します。漫画の投稿は、毎日午後7時頃にしていましたが、この日は、あえて20分ほど遅く投稿。「ワニの友達も読者も、ワニを待っている状況を作ることで、読者にキャラクターと同じ目線で読んでほしかった」というきくちさんの工夫に驚きました。
さらに、最後の日にワニが助けたヒヨコは、実は3日目に助けたヒヨコが成鳥になり産んだ卵からかえったヒナだとか。「誰かが死んでも命はつながっていく」ことを描いたそうです。
ワニは死んでしまいましたが、待ちわびた友達の一人がワニを迎えに行こうとする姿を描いたのは「行動することで未来は変わるかもしれない」という可能性を伝えたかったからだといいます。
「毎日いろんな選択肢があるけれど、やりたいことがあるなら、早く行動した方がいい」ときくちさん。作品を読み、きくちさんの話を聞いて、10代の私たちも、時間は無限ではないと意識することができました。興味を持ったことにはどんどん挑戦し、有意義な毎日を過ごしていきたい、と思いました。
(高2・浦田凜、高1・富田涼真、中3・大谷莉々、中1・青島アティーシャ・アンジェロ、岩瀬慧記者)