「成り行きはとても大切」
優しく、時にユーモアを交えながらジュニア記者の質問に答える村上春樹さん(8月8日、読売新聞東京本社で) 新刊『一人称単数』を発表した作家、村上春樹さん(71)の特別インタビューの後編です。村上さんの学生時代や普段の生活、新型コロナウイルスについて思うことなどを聞きました。
「僕の人生は、成り行きで来たからね……。計画や夢があったわけではない。だから、いい成り行きが待っているといいねとしか言えないな」
私たち高校生は普段、個性や夢を持てと言われ、受験のプレッシャーも感じています。その悩みを打ち明けると、意外な答えが返ってきました。村上さんは高校時代、本と音楽が好きで、勉強はあまりしなかったそうです。国語は得意で、「友達の読書感想文を書き、昼ご飯代をおごってもらっていた」と言います。英語や世界史もできたけれど、数学や物理は苦手でした。
1年浪人して早稲田大に合格しましたが、地元の関西に残るつもりでした。でも、入学金振り込みの締め切り当日、早稲田に進学を決めました。「当時のガールフレンドが怒るし、大変だったね。早稲田に入っても大学紛争の時代。授業のストライキが続いてしまって勉強しませんでした」
「そのうち、学生結婚してジャズのお店を始めてしまった。普通の人は、大学を卒業して就職し、結婚でしょう。僕は、結婚し、働き始め、大学卒業だから順番が逆なんですよね」
でも、村上さんにとっては、安定より自由が大切だったと振り返ります。店を開くときの借金を返すため必死に働き、29歳になって「突然書きたくなって書いた」のがデビュー作『風の歌を聴け』。「例えば、もし21歳のとき、何か書こうとしてもできなかったと思う。僕はある程度経験を積まないと、物を書けない人間でした。成り行きはとても大切なんだよ」
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