ごちそうを食べることの多いこの季節。今月のテーマは「食べもの」です。
菓子作り お話で味付け…中2・本谷記者
ジョアン・ロックリン作/こだまともこ訳 シュトルーデルは、薄く伸ばしたねり粉で、甘く煮たリンゴなどを包み、焼いたお菓子です。
『シュトルーデルを焼きながら』(偕成社)は、ジェシカとロリが、亡くなったウィリーおじいちゃんのやり方でシュトルーデルを焼こうとする場面で始まります。おじいちゃんの口癖は、「お話ぬきのシュトルーデルなんて、ただの小麦粉のかたまり」。彼らユダヤ人一家は代々、親や祖父母から聞いた話や自分の体験談を子どもに語りながらシュトルーデルを焼くという伝統があったのです。
語り継がれたお話は、「幽霊たちとおどった男の子」や「金に変わったリンゴ」など不思議でワクワクするものから、ユダヤ人が迫害されたつらい過去についてなど様々で、読み進めるにつれて一家の約1世紀にわたる歴史と家系図が明らかになってきます。
シュトルーデルの甘い香りが実際に漂ってくるような描写に、幸せな気持ちになります。会話を楽しみながら家族で共に過ごす時間の尊さをしみじみと感じ、心がとても温かくなりました。皆さんも、彼らの歴史をたどる旅に出ませんか?(中2・本谷理彩記者)
弓の名手活躍 食も魅力…中1・青島アティーシャ記者
ハワード・パイル作/村山知義・村山亜土訳 皆さんは「おたずね者」と聞くと、どんな人物を思い浮かべますか? 黒いひげをもっさりと蓄えた凶暴な人物を想像する人も多いのではないでしょうか。
『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(岩波書店、全2巻)の主人公は、おたずね者の中でも良いおたずね者、ロビン・フッドが主人公です。
ロビンは、12世紀頃にイングランドで活躍したと言われている伝説の英雄です。弓の名手で、18歳の時、弓試合に向かう途中で森役人を殺してしまい、逃げこんだのがシャーウッドの森。彼はそこで仲間たちと出会い、弱い人たちを助けるゆかいな冒険が始まります。
思わず応援の声が出てしまいそうな戦いの場面や、作者本人による精密で美しい挿絵。中でも食事の場面がとても魅力的です。ほかほか湯気を立てているおいしそうな茶色のまんじゅう、太ったニワトリを焼くうまそうな匂い。今にもジュージューと音がして、いい匂いが漂って来そうで、よだれが出そうになってしまいます。
読んでいるうちにお腹が空いてきてしまうかもしれませんが、ぜひ一度読んでみてください。(中1・青島アティーシャ・アンジェロ記者)
食べて生きていると実感
張替恵子/東京子ども図書館理事長 今は、にぎやかに食卓を囲むこともままなりませんが、本の中の食べものから元気をもらってください。
《1》森枝卓士著
《2》菅聖子文/やましたこうへい絵
《3》佐藤慧著/写真・安田菜津紀 『食べもの記』(福音館書店)《1》は、写真家が世界を旅して撮った、食にまつわる1200枚を集めた写真集です。赤、橙、黄色――これでもかと山積みにされたスペインの果物市場、ちょっと辛そうなスープに浸るベトナムの麺、ハト、カエル、ワニも並ぶ各国の肉料理……。食材や料理のほか、水田や麦畑、台所や屋台など、さまざまなシーンがページいっぱいに広がります。人間は食べて生きているんだと、腹の底から実感。
防腐剤無添加で3年間保存でき、缶を開けたらそのまま食べられる「パンの缶詰」を知っていますか? 世界の災害現場や飢餓地域で人々を救ってきた、この缶詰を発明したのは、栃木県那須塩原市にあるパン・アキモト社長の秋元義彦さん。『世界を救うパンの缶詰』(ほるぷ出版)《2》は、小さなパン屋さんが試行錯誤を重ねて缶詰を完成、世界進出を果たすまでを追っています。
きっかけは、阪神・淡路大震災。「やわらかくて保存のできるパンを作って」という被災者の声を聞き、自分の使命だと決意。1996年秋に缶詰は完成しましたが、なかなか売れません。でも、ある作戦が功を奏し……。「トラブルは神さまの計画」という秋元さんのパワーに触れてください。
岩手県にある「なかほら牧場」の牛たちは、一年中、昼も夜も山で自由に暮らしています。山に自生する植物を食べ、その糞尿は山を肥やす、豊かな循環から生み出されるのが『しあわせの牛乳』(ポプラ社)《3》です。牧場長・中洞正さんは、52年生まれ。牛飼いに憧れ、最先端の近代酪農を学びましたが、陽の光を浴びることなく牛舎に押し込められ、短い一生を終える牛たちを見て、効率優先の酪農に疑問を持ちます。
そんな時、自然放牧の山地酪農と出会い、多額の借金をして牧場を手に入れますが、その先は苦難の連続。でも、中洞さんは諦めません。目指すは「牛もしあわせ! おれもしあわせ!」。ひたすら納得を追い求める中洞さんの、がむしゃらな人柄が写真とともに伝わります。来年の干支、牛のことが愛おしく思えます。