コロナ収束へ 行動変えよう
新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。2012年にiPS細胞(人工多能性幹細胞)の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学iPS細胞研究所所長・教授の山中伸弥さん(58)は、昨年3月に個人サイトを開設してコロナ禍の収束に向けて関連情報を発信し続けています。今、私たちにもできることは何か、山中さんにオンラインで聞きました。
休校の議論再び
パソコン画面を見るときは眼鏡を外すことが多いという山中さん。コロナ禍による飲食店などへの経済的な影響についても触れ、「個室をとって家族で食事に行くなど、少しでもサポートできたらと思っています」 新型コロナウイルスが広がり始めた頃、山中さんは、今までのインフルエンザなどと違うと感じて、「長期にわたって世界中が大変なことになる」と思ったそうです。一方、世間が「それほど長期化しないのではないか」「そんなに心配しなくてもいいのでは」と考えていることに危機感を感じ、「いてもたってもいられなくなって」情報発信を始めました。
当初、日本を含むアジア地域では、欧米に比べてコロナによる人口あたりの死者数の少なさが際立っていました。山中さんは、その要因を「ファクターX」と呼び、マスク着用や手洗いなどの習慣、人種の違い、免疫の有無などいくつかの可能性を挙げています。
しかし、今大切なのはファクターXが何かというよりも「これからも続くかどうか」だといいます。「今、みんながコロナに慣れてしまって、外に食事に行ったり、いろんなところに出かけたりすることが(去年の)3月、4月より増えているが、気温、湿度が下がる冬は風邪や肺炎が勢いを増すことが多く、心筋梗塞や脳卒中も増える。医療現場は大変なことになっていて、事故などで運ばれた人も十分に治療できない、という事態にすでになりつつある」と山中さん。「だからこそ、みんなが一生懸命努力して感染者を減らすことが求められています」と訴えます。
昨年、私たちは数か月間の休校という、これまでにない経験をしました。山中さんは、欧米ではまだ休校が続いているところもあり、アメリカでは休校によって多くの命が救われたと報告する論文もある、としたうえで「子供は症状が出なかったり、出ても軽かったりする場合が多いけれど、感染が広がったらまた休校が議論されるかもしれない。今はこれ以上広げないことが非常に大切だと思う」と、改めて感染対策が重要だと強調しました。
設立10周年を迎えた京都大学iPS細胞研究所の研究棟(京都大学iPS細胞研究所提供) 現在、京大iPS細胞研究所でも、京大付属病院などの他の研究者と協力して、コロナに関する研究を進めているそうです。多くの研究者はサルの腎臓から作った細胞を使って研究を進めていますが、iPS細胞を使えば「肺など人間の細胞を大量に作り出すことができる。コロナの解明や治療薬の開発に少しでも貢献したい」と聞き、期待が高まりました。
京大iPS細胞研究所は今年度、設立10周年を迎えました。これまでは「iPS細胞をいかに患者さんに届けるか」を最優先にしてきましたが、これからは「若い研究者にできるだけいいチャンスを与えて、世界をあっと驚かせる研究ができる研究所にしたい」と考えているそうです。
ぜひ海外行って
山中さんは、中高生時代に勉強だけでなく、柔道やラグビー、生徒会活動、音楽バンドなど様々なことに取り組みました。アメリカ留学時代には、上司から「目立つのも仕事のうち。演じなさい」と、研究者として背中を押されました。その経験から「性格は変えられないけど、行動は変えられる」という山中さんの言葉に励まされました。
私たち中高生には「ぜひ若い頃に海外に行ってみてほしい」と勧めます。山中さん自身、アメリカで勉強した3年半がなかったら、全く違った人生になっていた、というほど大きな財産になったといいます。
「海外に行くと見方も変わるし、人の輪も広がる。あと1年ぐらいはなかなか外国に行けないと思いますが、その間に英語の勉強など、できることはいっぱいある。外国へ行くと苦労もするだろうけれど、ぜひ海外から日本を見る経験をしてほしい」とエールを送ってくれました。
一つひとつの質問に丁寧に答えてくれた山中さんは「失敗は山ほどしています」としながらも、「失敗から生まれる新しいこともある。ピンチをチャンスに変えて」と話していました。困難に直面しても、それを学びに変えてきたことが、世界的な発見につながったのだと感じました。私たちも、コロナ禍で行動範囲が狭まっている中で今できることを考え、チャレンジしたいと思いました。
(高2・西山寿奈、伊東志穂菜、中2・本谷理彩、三代和香、中1・青島アティーシャ・アンジェロ記者)