少ない音 残響で多彩に
皆
さんは、左手だけのピアノ
演奏
を
聴
いたことがありますか? 両手の演奏とはまた違う、深く温かい音色を味わうことができます。
智内威雄
さん(44)は、左手のピアニストとして
活躍
しつつ、左手のための曲を
収集
したり、
国際
コンクールを開いたりするなど、
普及
・
振興
活動に取り組んでいます。
ピアニスト・智内威雄さん 名曲を発掘 コンクールも開催
留学中に病
左手だけでピアノを演奏する智内威雄さん(写真は本人提供)
智内さんは、ドイツの音楽大に
留学
中の2001年、
局所性
ジストニアを
発症
しました。
筋肉
が
収縮
し、指が勝手に上がったり、
硬直
したりする病気です。両手で演奏ができなくなったとわかった時は「頭が真っ白になった」そうです。
一時は
抜
け
殻
のように
過
ごしていましたが、子どもの頃、自分の演奏を
喜
んでくれた
友達
のことを思い出し、音楽で「
誰
かを楽しませたい」と、
再
び音楽の道に向かうことができました。そんな時、左手だけで演奏するピアノ曲に出会います。
両手に比べると、一度に
弾
ける音は半分ですが、エコーをかけるペダルを
効果的
に使うことで、
残響
を生かした演奏ができます。智内さんは「音が少ないことは
利点
」だと言います。
数千曲
左手のピアノ楽曲を集めた楽譜(写真は本人提供)
智内さんによると、左手のピアノ曲は数千曲あり、右手のための曲は数十曲ほどだそうです。第1次
大戦中
に右手にけがをしたピアニストのために多く書かれたことなどが理由と考えられます。しかし、次第に演奏の
機会
は少なくなり、多くの名曲が
埋
もれていきました。智内さんは「
障害者
のためだけの音楽ではなく、いろいろな人が
垣根
なく、演奏できる分野にしたい」と、片手の演奏を広める活動を始めました。
当時、左手のピアニストはあまりおらず、また、学生でキャリアがないまま活動を始めた
例
はほとんどなかったため、
周囲
から反対されたそうです。しかし、演奏を
磨
き、次第に評価を
得
られるようになりました。
次世代へ
10年には、「左手のアーカイブ」プロジェクトを開始。
忘
れられた楽曲を
発掘
し、
楽譜
にしたり、演奏をビデオに
残
したりして、左手のピアノを主とする片手演奏の
認知向上
を目指した活動を行っています。
ピアノ演奏というと、プロの演奏家を
連想
しがちですが、障害を持つ男の子が言った「
僕
もピアノが弾きたい」という言葉から、アマチュア向けの曲も作り始めました。18年には、プロ・アマが交流する、世界
初
の国際コンクールを
開催
し、今年12月には、2回目を予定しています。
将来
は、左手のピアノ曲を「
無形文化遺産
に
登録
したい」と、
意気込
んでいます。「
簡単
ではありませんが、障害の
有無
の垣根を
越
えられる左手のピアノを、次世代につないでいきたい」と語ります。
私たち
若者
には「
個性
は弱点の中にある」というメッセージをくださいました。弱点を知り、生かして個性に変える。一見、
逆境
にあるように見えても、それをプラスに変え、行動する大切さが
胸
に残りました。
(高3・
斉田歩
、
福満愛可
、
山口万由子
、中2・
久慈紗緒里
、中1・
青島
アティーシャ・アンジェロ記者)