読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

津波で水没した楽器 なぜ、どうやって修復したの?

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

不屈の作業 奇跡のピアノ…福島の調律師

 東日本大震災だいしんさいから今年で10年。福島県ふくしまけんいわき市立豊間とよま中学校のきゅう体育館にあったピアノは津波つなみにのまれ、すなまみれの状態じょうたいで発見されました。修復不可能しゅうふくふかのうだと思われた楽器がっきを見事によみがえらせたのは、同市の調律師ちょうりつし遠藤洋えんどうひろしさん(62)。後に「奇跡きせきのピアノ」とばれるようになった、修復の軌跡きせきをうかがいました。

紅白「出場」

昨年7月の九州豪雨で被災した熊本県球磨村立渡小学校のグランドピアノの修復に取り組む遠藤洋さん(2021年1月、鞍馬進之介撮影)
昨年7月の九州豪雨で被災した熊本県球磨村立渡小学校のグランドピアノの修復に取り組む遠藤洋さん(2021年1月、鞍馬進之介撮影)

 震災後、遠藤さんがピアノを修復するきっかけになったのは、きざまれていた寄贈者きぞうしゃの名前でした。

 「特別とくべつな思いがあっておくった人がいたのに、それを台無だいなしにするのは切ない」と、心が動いたそうです。

 しかし、海水にかったピアノを修復した経験けいけんは一度もなく、作業は試行錯誤しこうさくご連続れんぞくでした。丁寧ていねい洗浄せんじょうしても、のこった塩分えんぶん完全かんぜんに取ることはむずかしい。さびたネジがれないように慎重しんちょうに進める必要ひつようがあるなど、修復作業は「ピアノとのたたかい」だと言います。

 それでも、半年にわたる手当てをて、ピアノは美しい音色を取りもどしました。2011年のNHK紅白歌合戦こうはくうたがっせんあらし桜井翔さくらいしょうさんがいたこともあり「奇跡のピアノ」として広く知られるようになりました。

「プラスα」

 わかころからギターを弾くのが趣味しゅみだった遠藤さん。調律師になる前は、JRの前身・国鉄につとめていました。楽器製作所せいさくじょの近くでアルバイトをしていた兄の元に遊びに行くうちに、ピアノの調律を見学して「これが自分の仕事かもしれない」と感じるようになりました。

 それまでにピアノを弾いたことは一度もなく、安定した仕事をめることに周囲しゅういから反対はんたいもありました。しかし、意思をつらぬいて調律師に転職てんしょくし、修業期間しゅぎょうきかんを経て、38さいのときに独立どくりつします。

 音程おんていだけでなく、むらのない音色、鍵盤けんばんのタッチ感など、細かなところまでこだわるのが遠藤さんの信条しんじょう。ピアノの弦や、音を鳴らすハンマー、フェルトなどの部品をすべて取り外し、再度さいど組み立てる「オーバーホール」と呼ばれる作業を何度も行いました。

 「自分の中で『プラスα』をつねもとめ、ピアノの調律をしてきたからこそ、被災ひさいしたピアノを調律することができた。仕事に対する信念しんねんを持つことが大切」だと、語ります。

3月11日に行われた「奇跡のピアノ」のミニコンサート(いわき震災伝承みらい館提供)
3月11日に行われた「奇跡のピアノ」のミニコンサート(いわき震災伝承みらい館提供)

 震災の記憶きおくつたえる「奇跡のピアノ」にかんするイベントは、各地かくちで行われてきました。現在げんざいは、地元のいわき震災伝承でんしょうみらい館で展示中てんじちゅうです。3月11日には、ミニコンサートが開かれました。

九州へ

 遠藤さんはつちかったノウハウを生かして、豪雨災害ごううさいがいなどで水没すいぼつしたピアノの修復を数多く手がけるようになりました。最近さいきんまで作業していたのは、昨年さくねん7月の九州豪雨で被災した熊本県球磨村立渡くまもとけんくまそんりつわたり小学校のグランドピアノです。経営けいえいする「ピアノショップいわき」に、球磨村を支援しえんする兵庫県ひょうごけんのボランティアから相談があり、依頼いらいを受けました。

 修理を進めるなかで「ピアノは人生の節目ふしめ、節目で弾かれる楽器であり、校歌や合唱がっしょうがしみこんだ、心に残る楽器なのだ」と、より実感したと言います。渡小学校のピアノは修理をえ、21日に球磨村で開かれる式典で演奏えんそうされる予定です。被災している人たちに少しでも明るい話題をとどけたいと、遠藤さんはこのピアノを「希望きぼうのピアノ」と呼んでいます。

 自分が被災した経験から「災害はいつ起きるかわからない。そなえて、考えておくことが大事」と語気を強めます。「事前に準備しておくものは何か? 家族の集合場所は? 決めることはたくさんある。最悪さいあく状況じょうきょうを想定して、自分で身を守ってほしい」という言葉は切実です。

「間違いなんてない」

 進路を考えるジュニア記者には「言葉だけじゃ何も進まない。まようことはたくさんあるけど、間違まちがいなんてない。自分のやりたいことをきなようにやっていい」と、エールを送ってくれました。失敗しっぱいをおそれず、挑戦しつづける遠藤さん。「奇跡のピアノ」は、えることのない努力のもとでこそ鳴り響いているのだ、と思いました。

 (高2・岩瀬周いわせあまね、高1・富田涼真とみたりょうま記者)

無断転載・複製を禁じます
1930499 0 キッズニュース 2021/03/29 05:20:00 2021/03/30 13:03:22 2021/03/30 13:03:22 弦の張り具合を調整する遠藤さん。東日本大震災の津波で水没したピアノをよみがえらせてきた福島県いわき市の調律師遠藤洋さんが、昨年7月の九州豪雨で被災した熊本県球磨村立渡小学校のグランドピアノの修復に取り組んでいる。福島県いわき市で。2021年1月23日撮影。同月28日夕刊「浸水ピアノ 球磨に響け いわきの調律師が修復」掲載。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210319-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)