
中山
祐次郎
さん(40)の
小説
『
泣
くな
研修
医』(
幻冬舎
文庫)が、4月から
連続
テレビドラマにもなって話題を集めています。福島県
郡山市
の
総合
南東北病院外科医長を
務
める
現役
の
医師
でもある中山さんに、命を
扱
う仕事への向き合い方や小説家という全く
違
った
業種
に
挑戦
した理由を、オンラインで
取材
しました。
自分の気持ち反映
テレビ朝日系で放送中のテレビドラマ「泣くな研修医」。右が白濱亜嵐さんが演じる雨野隆治 『泣くな研修医』は、25歳の研修医、雨野隆治を主人公にしたヒューマンドラマです。まだ半人前の研修医を主人公にしたのは、「一般人と医師の両方の視点から物語を描ける」と考えたから。医者が患者に接するとき、その思いを気遣った「優しい嘘」も許されると知ったり、同じ年のがん患者の最期を看取ったりしながら、雨野は成長します。
天才外科医が活躍するような医療ドラマと違って、主人公の無力感やかっこよくない姿ばかり出てきますが、先輩医師に必死にくらいついていく姿に勇気をもらえます。「すごいお医者さんになりたいと考えながら、知識も技術もなく苦しい思いをしながら頑張った」自身の研修医時代の気持ちも反映しているそうです。
小説の中には、社会全体の医療費の負担を考えたときに、余命が限られる患者の高額な延命医療を続けることの是非といった難しい議論もでてきます。中山さんは「合理的に考える医者もいて、どこかで真実を含んでいる。僕の中でも結論は出ていないし、読者にもどちらがいいのか考えてほしい」と率直に話します。
中山祐次郎さん 中山さんが医師を志すきっかけは15歳の時、ある国でゲリラにさらわれた子供たちが悲惨な目に遭っているという新聞記事を読んだこと。生まれた瞬間から不公平な世界をよくしようと医学の道を選びました。でも学校の成績は悪く、理系のテストで最下位を取ったことも。浪人した2年間、本気で勉強して、鹿児島大学の医学部に受かりました。
医師になった後、2016年に福島原発近くの地域医療を支えてきた福島県広野町の病院の院長が亡くなった翌年、「自分の生き方を問われている」と感じてピンチヒッターで院長を務めたこともあります。
多くの人に伝えたい
中山さんが6年前に初めて出した本は『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』(幻冬舎新書)。当時、都立病院の外科医で、死を前に混乱し後悔を残したまま最期を迎える患者さんを看取ることがありました。そして、「人間はいつ病気になって死んでしまうか分からない。そのことを知れば生き方が変わるかもしれない」ということを、多くの人に伝えたいと考えたからでした。
新書を出版後、がん闘病中の友人から「あなたはこの本に書いてあることを実践しているの」と問われ、「もしあと1年しか生きられないとしたら、小説を書きたい」と思ったそうです。そうして生まれた『泣くな研修医』は、3月に3作目が出ました。
医師兼小説家という二足のわらじを履く生活で、「どうやって時間を作るか」は重要な問題。トイレや風呂でも執筆したり音声入力を利用したりする工夫で乗り切っています。でも、手術に影響しないよう毎日8時間の睡眠時間は大切にしています。
「医師の仕事は、毎日がやりがいで、元気になって退院してゆく患者さんを見ると幸せを感じます。いつか、海外の紛争が起きているような地域の人の力になる仕事もしたい」と人生展望も教えてくれた中山さん。これからも医師と作家の二つの活動に注目していきたいと思います。
編集後記
中山先生が読者に訴えていた「死を身近に」を考えてみると、ある話を思い出しました。それは、生物は子孫を残すと、自動的に死へと向かうようにプログラムされているというものです。人間だけが死への恐怖を持っています。なぜなのか。先生に取材すると答えが見えました。死の恐怖を持つことで行動力につながるから。新型コロナウイルスに恐怖を覚えている今日、とても前向きになれる取材でした。(吉川)

★企画者・吉川詩音記者(高2)、飯島ひかる記者(高1)、栗本個刀記者(中2)、吉田桜記者(中1)、倉田花怜記者(小5)