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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    驚きが隠し味(1)

    鎌ヶ谷高(千葉県) 料理研究部

    味は「普通」じゃ意味がない

     歴史を感じさせる校舎の一番奥。桜咲き乱れる校庭のすぐそばに鎌ヶ谷高校料理研究部(略して料研)のホームキッチンはある。放課後、ここから立ち上る温かい香りは食べ盛りの運動部員らの胃袋をこれでもかと刺激し……。

     な~んて書き出しで始まるのがオーソドックスな料理研究部の物語なんだろうけど、3年のユウに言わせれば、鎌高の料研についてはちょっと違う。

    まるで実験室

     鈍く光る調理台がずらりと並ぶ調理実習室はキッチンというよりは、むしろ実験室。今日も部員が2~3人ずつのグループに分かれ、あ~でもないこ~でもないとオリジナルメニューの開発に精を出している。

     しばらくすると、奥のテーブルからブッセの甘い香りが立ち上ってきた。9月の文化祭でデザートを担当する予定のカオリたち2年生チームだ。

     さて、次は……。おっ、イワシのかば焼きか? 試作段階だけど、この甘香ばしさがなんとも言えない。そして時を置かず、すぐ隣で揚げ物を始めたのは3年のミキ。レーザーで油の温度を測る最新機器を持つ姿は妙に科学者っぽい。

     和洋中、前菜からデザートまで、何から何までが入り交じった複雑な香り。ユウはこのちょっとしたカオスが何とも言えず好きだ。

    卒業レシピ

     当のユウたち3年生7人が現在、実験、もとい試作を重ねているのは卒業レシピの「サモサと焼き春巻き」。6月に近くの大型スーパーでの活動発表会で、調理・販売に挑戦するのだ。

     この日の主な議題は、サモサの中身。サモサとはインド版コロッケみたいなもので、スパイスで味付けしたジャガイモやタマネギなどを小麦で作った皮で包んで油で揚げたもの。

     一緒に出す春巻きのパリパリ食感を意識し、皮はあえて強力粉を使って、もっちり感を出すことまでは決まったけど、中身がなかなか難しい。

     まず、目の前に並んだのが、スイーツ系サモサ。部長のニコを中心に輪になって、試食タイムが始まる。

     「・・・・・・」

     「・・・・・・」

     「う~ん・・・」

     しばしの沈黙。禁断の言葉「まずい」は出ないが、みんなの考えは一致しているようだ。

     「スイートポテトはちょっと重いな」

     「この前のリンゴのキャラメル煮は苦かったしねぇ……」

     「甘い系は難しいよね」

     ボツになった試作品に「ごちそうさま」をして次の挑戦。中身はきんぴらゴボウだ。

     タタタタタッ、とニンジンとゴボウを鮮やかな手つきで切り刻み、甘辛く手早くいためる。これはこれで安定の味なのだけど、サモサに入れると……

     「・・・・・・」

     「・・・・・・」

     「う~ん。普通、だね」

     予想通りの味と食感。てか、これでは、皮に包む意味がない。

     私たち料研がめざすのは、食べてもらった人に驚きと感動を与えること。「普通」は失敗同然だ。料理のしすぎで全身筋肉痛になることもあるけど、レシピに妥協の2文字はない。

     「できたよ。今度はマーボー豆腐入り!」。ミキが次の試作品を手に戻ってくる。

     さて、今度はどんな味? ユウは心躍らせ、熱々の一切れをひょいとつまみ上げた。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

    2018年05月28日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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