名門背負って(2)
完了しました
夙川
学院中・高(兵庫県) 柔道部
こんな話です
夙川学院高校柔道部のエース・阿部
▽過去の連載
名門背負って(1)
私は世界一になりたい

「誰でも志は世界!!」
柔道部の松本純一郎監督は日頃から、男女45人の部員全員にそう伝えている。
初心者相手でも、有段者に対しても、その口調や表情が変わることはない。何事でもやるからには、最も高い場所を目指す志と覚悟を持ってほしい、との思いからだ。
いまや日本女子柔道界期待の星となったエース・阿部詩にも、それが問われた転機があった。
今から2年前、優勝候補として臨んだ全国高校総体での出来事だ。
中3の時、52kg級で全国中学校柔道大会で優勝して以来、同世代では敵なしの強さを誇ってきた詩。男子柔道の次世代エース阿部
1回戦。
「よし、いこか」。全国制覇への最初のステップ。詩は序盤から積極的に仕掛けた。相手は防戦一方だったし、リズムも悪くなかった。
だが、待ち受けていたのは、まさかの展開。試合中盤、相手の足に足がかかり……バタッ。
次の瞬間、審判が詩に告げた。
「反則負け!」
「えっ、なんでなんで!?」
状況が受け入れられない。でも、試合終わったら、礼せなあかんし……。
詩がとられたのは、ケガの危険があるため禁止されている
礼を終え、詩はその場でぼう然と立ちつくした。
負けを生かせ

「なんで負けたんや。これから、うちどうすればいいんやろ」
まさかの敗北からしばらく、詩は泣きに泣いた。周囲の期待を裏切ったのもつらかったし、何より自分の柔道に自信が持てなくなった。
「何をしたらいいのかわからなくなりました」。1週間後、心の内を明かした詩に、顧問の垣田先生は一言だけアドバイスをくれた。
「詩、この負けをどう生かすかは、自分次第や」
負けを、生かす……。詩はこの言葉を心の中で繰り返した。
自分はなぜ柔道をやっているのだろう。
小さい頃は相手を投げ飛ばしたときの
じゃあ、その先にあるのは?
その時、詩ははっきり分かった。私は大好きな柔道で絶対に負けたくない。私は柔道で世界一になりたい、って。
詩は生まれ変わった。
絶対に取る
1年後、詩は再び、全国高校総体の舞台に臨んだ。シニアの国際大会での史上最年少優勝、春の高校選手権優勝など、数々の“勲章”をひっさげて……。
この日は初戦からエンジン全開。序盤から相手を攻めに攻め、決勝までオール一本勝ち。「このタイトルだけは、絶対に取りたかった」。試合後はこう言って笑顔をはじけさせた。
詩が五輪に挑む52kg級は、国内でも実力者がそろう最激戦区。だから、国際大会で優勝しても、高校日本一になっても、詩は自分に満足することはない。
昨日よりも今日、今日よりも明日、強くなる――。誰よりも高い場所に上る覚悟とは、そういうことだ、と詩は思う。