名門背負って(3)
完了しました
夙川
学院中・高(兵庫県) 柔道部
こんな話です
夙川学院柔道部で国を背負って戦う選手は、今年9月の世界選手権日本代表、阿部
▽過去の連載
2階級女王 食べるのがお好き

夙川学院柔道部には最強の愛されキャラがいる。高3の金知秀だ。
兵庫県生まれの在日韓国人3世。48kg級と57kg級の2階級で高校女王となった実力者で、韓国代表にも選ばれている逸材なのだが、何せ、やることがいちいち面白い。
2階級制覇も、彼女が引き起こした騒動が引き金だった。
減量苦「食うたろ」
「知秀、ばっくれたらしい!」
柔道部にそんな衝撃的な情報が飛び込んできたのは2017年2月のこと。前年の高校総体女子48kg級で、1年生ながら全国制覇を果たした彼女は生徒の誰もが知る有名人。ウワサは瞬く間に学校中に広がった。
「あの明るく強い知秀さんに何が」――。テレビのワイドショー的に言えばこんな感じだろうが、実はこの時、彼女は近所のレストラン「サイゼリヤ」に通い詰めていた。「死ぬほど、食うたろ」と目を血走らせて。
原因は過酷な減量だ。
幼い頃から線が細く、小1のとき、父親から「自分の身は自分で守れるぐらい強くなれ」と柔道を勧められた。
そこで開花したのは、天性のパワーと勝負根性。得意の大内刈りを武器に、数々の大会で優勝し、自分どころか他人の身まで守れるほどの力を付けた。
ところが、夏の高校総体優勝後、大きな壁にぶつかった。
減量苦。以前は細身だったので48kg級が当たり前だったが、強くなるうちに筋肉が付き、体重が減らなくなったのだ。
失踪直前、知秀は限界まで追い込まれていた。試合3日前の段階で56kgから49.6kgまで落としていたが、それ以上どうしても減らない。水も食事もほとんど取らない日々を送る中……バタン。知秀は倒れた。
戻った闘争心

倒れた翌日、サイゼリヤに現れた知秀は、柔道家からフードファイターに変わった。
ランチのパスタセット、ピザ、ポテト、小エビのサラダ、プリン……あっ、もちろんミラノ風ドリアもお願いします☆
1週間連続の大食いで体重は63kgに。ここまで来ると48kgまで絞る気にはなれない。何もかも面倒になり、それから1か月、学校をサボった。
ただ、知秀を畳の上に戻したのも、彼女のファイターとしての本能だった。2年に進級したとき、気づいたのだ。「柔道のない生活って、つまらん」と。
松本純一郎監督も「待ってる」と言ってくれている。親にもこれまで、減量とか遠征とかいろいろ応援してもらっている。そんなみんなの期待を背負って戦うって、最高にスリリングだし、何より幸せなことだった。
「やっぱり柔道やります!!」
そう申し出た知秀に、松本監督も優しい目でうなずいた。
復帰戦はわずか2週間後の市内の大会。体重は59kgだったので、「とりあえず57kg級で」となったのだが、あらびっくり。ブランクを感じさせるどころか、今までよりパワーが増し、オール一本勝ちで優勝したのだ。
減量苦から解放された知秀は快進撃を見せる。アジアジュニア選手権を制し、韓国代表に選ばれると、春の高校選手権でも優勝。まさに大車輪の活躍だ。
ただ、今でも唯一の敵は、やはり旺盛な食欲。今年5月、韓国代表の合宿から帰ってきた知秀はげっそりとやせこけていた。焼き肉屋で食中毒になったのだそうで……食事には気をつけます、と反省していた。