名門背負って(4)

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夙川(しゅくがわ) 学院中・高(兵庫県) 柔道部

こんな話です

 夙川学院柔道部は全国屈指の強豪校だが、「強くなりたい」という気持ちさえあれば、いつでも、どんな生徒でも受け入れる。柔道未経験者の中3の男子、瀧村もその一人だ。

▽過去の連載

 名門背負って(1)(2)(3)

真っさらな男子部員。黒帯になる

 日本女子柔道界、期待の星・阿部(うた)、韓国代表・(キム)知秀(チス)、そして世代トップレベルの選手たち……。ごりごりの強豪校を地でいく夙川学院柔道部だが、実は全国レベルなのは女子だけで、15人いる男子の方はぶっちゃけ無名の存在だ。

 というのも、もともと中高一貫の女子校だった夙川学院が共学化したのは2016年4月。男子部ができたのはそれからなので、まさにできたてほやほや、歴史も伝統もないのだ。

 ド素人ながら入部してきた男子部員もいる。今日も道場の隅で女子部員に投げ飛ばされているおかっぱ頭の中3、瀧村だ。

「投げる快感」

 瀧村は中1の春、柔道部の松本純一郎監督が受け持つ柔道の授業で「投げる快感」にとりつかれた。

 柔道は初体験。もともとインドア派で、人を投げるなんて無理と思っていたけれど、松本先生のアドバイス通りに背負い投げを試してみると……。

 くるっ。あれれ? 相手が1回転して畳の上に転がった。

 忘れないうちにもう一度。

 くるっ。すごい!! あんま力入れてないのに。これって、「柔よく剛を制す」ってやつ?

 瀧村はその場の勢いで、先生に入部を届け出た。

 だが、入部後に待っていたのは「投げる快感」ではなく「投げられる屈辱」だった。

 強豪の女子とともに行う練習は、初心者だろうが有段者だろうがすべて同じ。放課後の4時間、寝技と立ち技を反復する地獄のメニューだ。手加減もいっさいなしで、瀧村は男子にも女子にも豪快に投げ飛ばされた。

 それを繰り返すこと1年。「俺、投げられてばっかりやん。しんどいだけや」。2年になった時、瀧村は柔道部を辞めた。

挫折のち再入部

 その年の秋、瀧村は再び体育の授業で松本監督から柔道の指導を受けた。

 監督から見れば、自分は元ダメ柔道部員。久々に身につけた柔道着はごわごわして何だか着心地が悪かった。

 でも、乱取りが始まった瞬間、あれれ? 未経験者相手とは言え、柔道部では全然、うまくいかなかった背負い投げが面白いように決まる。

 キツネにつままれたような顔をしていると、松本監督から声をかけられた。

 「瀧村、できるやないか」

 「はい!! ありがとうございます!!」

 瀧村はその場の勢いで2度目の入部届を出した。


 始まったのは、かつてと同じ、投げられる日々。ただ、それは決して屈辱ではなかった。

 ひとたび畳の上に上がれば、有段者であろうが初心者であろうが真剣勝負。強い相手に本気で投げられることは、実は学びそのものだったのだ。

 今年5月、瀧村は一世一代の大勝負に臨んだ。

 柔道を始めた者なら誰もが憧れる黒帯をかけた昇段試験。組み合った瞬間、不思議なぐらい相手の動きが見えた。

 結果は負けなしの3連勝。ド素人のダメ柔道部員が黒帯をゲットした瞬間だった。

 黒帯の影響だろうか。瀧村は最近、所作が堂々としてきたと部の中でも評判だ。もちろん投げられまくっているのは、これまでと変わりないけれど。

34138 0 部活の惑星 2018/08/02 05:20:00 2018/08/02 05:20:00 2018/08/02 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180726-OYT8I50060-T.jpg?type=thumbnail

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