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    中高生の部活にまつわる青春ストーリーをお届けします。

    名門背負って(5)

    夙川 ( しゅくがわ ) 学院中・高(兵庫県) 柔道部

    こんな話です

     日本女子柔道界の期待の星・阿部(うた)擁する夙川学院高校柔道部は昨年3月、全国大会の団体戦で久しぶりの優勝を果たした。そして、今年3月、チームはエース抜きで2連覇に挑んだ。

    ▽過去の連載

     名門背負って(1)(2)(3)(4)

    「エースおらんでも」 意地の連覇

     夏の高校総体、春の選手権で何人もの女王を輩出してきた女子柔道の名門・夙川学院。でも、それはあくまで個人戦での話。意外なことに、団体戦での全国制覇は昨年3月に選手権で優勝するまで20年以上遠ざかっていた。

     先鋒(せんぽう)(軽量級)、中堅(中量級)、大将(無差別)の3試合で争う団体戦でカギを握るのは「強いエース」の存在だ。

     3試合で2勝すれば文句なく勝ち抜けなのだけど、1勝1敗1分けになれば、勝敗は一本や技ありなどのポイントで決まる。1試合でも一本勝ちすれば、優位に試合が進められるのだ。

     で、昨春の選手権で大活躍をしたのが当時1年だったエース阿部詩だ。先鋒で出場し、決勝までの5試合ですべて勝ち、うち4試合を一本勝ち。チームを頂点に導いた。

    苦渋の「詩外し」

     あれから1年。選手権の会場・日本武道館はざわついていた。団体2連覇を目指す夙川学院の登録メンバーにエース阿部詩の名前がなかったからだ。

     松本純一郎監督にとっては苦渋の決断だった。

     実は詩は2週間後、世界選手権の代表選考を兼ねた全日本選抜体重別選手権を控えていた。

     勝利にこだわるか、選手の将来を第一に考えるか――。

     松本監督は腹をくくった。

     「夙川は詩だけのチームやない。おらんでも強いってとこ、見せたろやないかい!!」

     ▽先鋒 村川実葉瑠(みはる)(前日の個人戦48kg級準優勝)

     ▽中堅 (キム)知秀(チス)(前日の個人戦57kg級優勝、韓国代表)

     ▽大将 長谷川瑞紀(みずき)か吉峰芙母絵(ふもえ)(去年の団体戦優勝メンバー)

     2連覇を託されたメンバーは燃えに燃えた。初戦から気合の柔道で誰一人負けずに準決勝までの4試合を勝ち上がった。

     決勝の相手は前日の個人戦優勝者2人を擁する帝京(東京)。相手に不足はなかった。

    「絶対下がらん」

     先鋒戦。実葉瑠の相手は個人戦で52kg級を制した強敵だ。1階級上の相手に押し込まれて反則を取られ、僅差で負け。いやな空気が流れた。

     流れを断ち切ったのが、中堅の知秀だ。序盤から攻め、相手の腕をつかむや、豪快な一本背負い投げで畳にたたきつけた。

     「技あり!!」のコールにわく会場。試合はそのまま終わり、1勝1敗のタイに持ち込んだ。

     そして大将戦。相手は無差別の優勝者だ。勝負を託された芙母絵は心の中で誓った。

     「絶対、後ろに下がらん!!」

     この時点で両校は1勝1敗。ポイントでは「技あり」を取っている夙川がリードしている。引き分け以上でOKだが、後ろでパス回し、みたいにいかないのが柔道だ。消極姿勢を見せれば、反則を取られ、逆転される。

     強い相手と引き分けるにはどうするか。技は決まらんでもしょうがない。芙母絵は必死に前に出た。そして……

     「ビーッ」

     試合終了を告げるブザーがなった。執念の引き分け。2連覇が決まった瞬間だった。

     表彰式後、部員みんなで武道館の畳の上にあがった。「2連覇」を意味するピースサインで記念撮影。試合に出たメンバーも、エースの詩も、弱小の男子部員もみな笑顔だ。

     松本監督は改めて教えられた気がした。

     エース不在でも、相手が強くても、目標は必ず成し遂げる。名門とはそういう一人一人の気持ちに背負われているのだ、と。(完)(文・吉田拓矢 写真・枡田直也)

    2018年08月03日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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