シカの輪は回る(1)

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花巻農業高(岩手県) 鹿踊り部

心を射抜く、激しいリズム。東北の宝。

 「ドンドン、ドン」

 10月の透き通るような秋空に和太鼓の音が響き渡る。

 「おっ、もうやってるな」

 ユウマは太鼓のリズムに合わせるように、少し速足でいつもの練習場に向かった。

 部室でジャージーに着替え、棚に置いてある自分の和太鼓をむんずとつかむ。

 さぁ、今日も思い切り、舞おう。我が古里に伝わる伝統の「鹿踊(ししおど)り」を。

賢治さんも愛した

 シカの頭に見立てた「シシガシラ」と呼ばれる装束(しょうぞく)をかぶり、歌い舞う「鹿踊り」は、岩手を中心に東北地方に広く伝わる伝統芸能。猟師に撃ち殺されたシカを供養するために始まったなどと伝えられている。

 ユウマら花巻農業の生徒には、この鹿踊りに特別な思い入れがある。かつてここで教べんを執った宮沢賢治がこよなく愛した踊りだからだ。

 地元では親しみを込めて「賢治さん」と呼ばれている天才作家は、「鹿踊りのはじまり」という童話を残している。

 風が「鹿踊りの、ほんとうの精神」を語った、という物語のあらすじはこうだ。

 ある日、農家の嘉十(かじゅう)は山の中で、輪になって踊るシカたちに出会う。ススキの陰でひっそりと眺めていると、嘉十は次第にシカの言葉が分かるようになり、その踊りに心を奪われていく。最後は人間とシカという関係を忘れ、ついつい輪の中に飛び出してしまうが、シカは一斉に逃げ出してしまった――。

 大自然の営みと一体化する喜び、人の心を圧倒する生き物の美しさ、自然への一方通行の愛……解釈は人それぞれだろう。

 ただ、一つ言えるのは、鹿踊りは、僕ら東北で生まれ育った人と、豊かな自然との深い関わりの中で生まれ、受け継がれてきた宝物だ、ということだ。

衝撃の出会い

 「鹿踊り部」の部長を務めるユウマは2年前の春、嘉十と同様、シカの舞に魅了された。

 あの日のことは今でもしっかり覚えている。

 体育館で開かれた部活紹介。ユウマは一人どんよりした表情を浮かべていた。

 中学ではバレーボール部。高校でも絶対バレー部と思っていたが、驚きの事実が発覚した。

 「うちの学校、男子バレー部、ないんかーい!!」

 と、いうワケで入学早々、目標を見失ったユウマ。どこの部もピンと来なくて、発表も聞き流していた。そんなとき――。

 「次は鹿踊り部です」

 ん? シシオドリ? ユウマも名前だけは聞いたことがある。そういえば、ちゃんと見たことなんてなかったな。ぼーっと、ステージに視線を向けていると、不思議なことが起きた。

 太鼓の激しいリズムに合わせ、舞う踊り手。そのあふれる野性味にユウマの目は(くぎ)付けになった。体にビンビン伝わる生命力。胸が自然と熱くなった。

 「格好いい!!」

 さらに次の瞬間。追い打ちをかけるような衝撃が走った。演舞を終え、舞台の真ん中であいさつしたのは……。

 「えっ!! こんなキレイな人もいるの!?」

 当時、3年だったルイ先輩。「ぜひ鹿踊り部に入ってください☆」。ダメ押しの笑顔に、ユウマの心は固まった。

 勇壮な踊りへの感動なのか、淡い恋心なのかはさておき、踊るシカたちの輪に飛び込んだユウマは嘉十と違って、この上ない大歓迎を受けたのだった。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 シカの輪は回る(2)はこちら

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542662 0 部活の惑星 2019/04/22 05:20:00 2019/06/28 09:44:15 2019/06/28 09:44:15 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190417-OYT8I50022-T.jpg?type=thumbnail

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