シカの輪は回る(2)

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花巻農業高(岩手県) 鹿踊り部

こんな話です

 勇壮な踊りと美人のルイ先輩に憧れ、鹿踊り部に入部したユウマ。「さっそく踊りを」と思いきや、待ち構えていたのは、暗記に筋トレ!? 踊り手になるための意外な試練に挑むのだった。

▽過去の連載
 シカの輪は回る(1)

タグスコタグスコ、ニモ負ケズ。

 2年前の春、地元に伝わる鹿踊(ししおど)りにいろんな意味で一目()れしたユウマ。さっそく憧れのルイ先輩に手取り足取り、振り付けを教えてもらおう! なんて心躍らせながら、部室の門を(たた)いたのだけれど……。

 「1年生の皆さんには、まずこれを覚えてもらいます!!」

 ん? 突然、直立不動でぶつぶつ唱え始めた先輩たち。

 「タグスコタグスコターコ」

 ……。何かの呪文ですか!?

 「スッタコスッタコスッタコザ」

 ……。あのぉ、もう10分ほど経過していますけど。

 「チキチキスッチキチーコーザン」

 ……。てか、僕たち、どうすればいいんですか!?

暗記と筋トレ

 実はこれ、「口唱歌(くちしょうが)」と呼ばれるもの。鹿踊りで叩く太鼓のリズムを暗記するための歌で、15分もある。それを一字一句すべて覚えることが、新入生に課された最初の課題だった。

 歌詞(?)を書き写したノートを通学途中の電車で読み返したり、学校で口ずさんだり。現代っ子のユウマは「睡眠学習法」まで編み出した。歌を音読し、それをスマホのレコーダーに録音。毎晩、布団に入ってから、延々リピート再生して、脳内にたたき込む。

 「先輩、覚えました!!」

 約1か月かけ、なんとか口唱歌の暗記をクリアしたユウマだったが、待ち受けていたのは、さらなる関門だった。

 □ 口唱歌を覚えているか

 □ 振り付けを覚えているか

 □ 実際に太鼓を叩けるか

 □ 太鼓を叩きながら踊れるか

 □ 装束を身にまとい動けるか

 鹿踊り部では、この五つの関門のテストに合格してようやく人前で踊ることが許されるのだ。

 中でも最難関が「装束」のテスト。鹿踊りの装束の重さは実は15kgもあって、それを着たまま、中腰で踊るのは至難の業。ユウマも初めてシシガシラをかぶった時は、思わずバランスを崩してしまった。

 そんなわけで鹿踊りには強靱(きょうじん)な肉体が欠かせない。部の練習も最初の30分以上は必ず腹筋やスクワット、そして足腰を鍛えるランニングに費やす。

 帰宅すれば、いつもクタクタ。ユウマも台所で弁当箱を洗いながら、ウトウトしたことは一度や二度ではなかった。

苦節半年、デビュー

 テストの試験官を務めるのは先輩たちだ。

 過去には、顧問の先生が「学内イベントなら」と、テストに合格していない1年を文化祭で踊らせてあげようとしたら、先輩の大反対にあったこともあるという。テストはそれほど厳しく、絶対的なものなのだ。

 ユウマもこの壁を乗り越えるのに苦労した。1人また1人と同級生がデビューを果たす度に焦りを募らせ、自信を失った。

 折れそうになる心を支えてくれたのは、ルイ先輩の言葉だ。

 「自信を持って踊らないと、見てくれる人に失礼だよ」

 ハッとした。僕らは誰のために、何のために踊るのか。この生命力あふれる素晴らしい伝統芸能を一人でも多くの人に()てもらうため――。自分のことばかり考えていて、どうする。

 奮起したユウマがデビューしたのは、入部から約半年後の文化祭。必死で踊り抜き、浴びた大喝采(かっさい)はたぶん、一生忘れることはできない。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 シカの輪は回る(3)はこちら

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542667 0 部活の惑星 2019/04/23 05:20:00 2019/06/28 09:44:05 2019/06/28 09:44:05 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190417-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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