シカの輪は回る(4)

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花巻農業高(岩手県) 鹿踊り部

こんな話です

 流派秘伝の鹿踊りを伝承することになったユウマたち。その特徴は、激しい運動量だ。厳しい練習を乗り越え、総文祭(全国高等学校総合文化祭)出場をかけて臨んだ県大会で、ユウマは秘伝の踊りの(すご)さを実感する。

▽過去の連載
 シカの輪は回る(1)(2)(3)

踊る、踊る、つなぐ。新たな伝説

 総文祭出場の切り札として、「春日流落合鹿踊(ししおどり)保存会」から“流派秘伝”の鹿踊りを伝承することになったユウマたち。創設60年にして初めて知る演目に、胸躍らせたのは言うまでもない。だって、秘伝って言葉だけで心くすぐられる。

 「何だか知らないけど、とにかく格好いいらしい!」

 ただ、継承の是非を巡っては、保存会の中で議論もあった。

 「高校生に伝承しても良いのか。本当に踊れるのか」

 鹿踊りは歴史ある伝統芸能。その秘伝の伝承は、まさにマンガや映画で出てくる“奥義継承”をリアルにした世界なのだ。

 踊り方は門外不出。代々、継承者にふさわしいと認められた者だけが、口伝と実演のみで受け継いでいく。踊りの名も公で明かされることはなく、もちろん、この連載でも同様だ。

 だが、ユウマらを常に見守ってきた保存会の会長・大野五月男には確信があった。努力を怠らぬ姿勢、踊りのセンス、そして継承者としての覚悟……。

 「あの子たちならきっと大丈夫。鹿踊りを全国に知らしめたいという思いに応えたい」

猛練習の末の奇跡

 猛特訓が始まった。

 秘伝の踊りの特徴は、半端ない運動量。ぐるぐる回転しながら、頻繁に隊列を入れ替え、体全体で生命の躍動を表現する。約15kgの装束は腰に大きな負担を与え、ユウマもコルセットを巻いて練習に臨んだ。

 さらに、ステージで踊る総文祭対策として、通常の8人構成を16人構成にアレンジ。迫力は増すが、その分、そろえるのも難しい。心が一つにならないと、全てが台無しになる。

 ただ、5年ぶりの総文祭出場をかけた県大会。ユウマは秘伝の踊りのパワーを実感した。

 まだプロトタイプ(原型)をマスターしただけなのに、ステージ上から見ても、観客が踊りに心奪われているのが分かる。心を刺激する和太鼓の激しいリズム。いかつい装束を身にまとい、時に荒々しく、時に優しく舞い踊る16人の一糸乱れぬ動き。

 結果はもちろん堂々の通過。花農鹿踊り部が究極の進化を遂げた瞬間だった。

 今夏の総文祭で、それは“伝説”になった。

 先人たちが脈々と受け継いできた踊りに、照明などの演出を加えたのだ。伝統を現代風にアレンジした約10分の演技を終えると、会場はどよめきと拍手に包まれた。

 それだけでも、十分満足だったんだけど……。

 「文部科学大臣賞は、花巻農業高鹿踊り部!!」

 えっ? 思わず息をのんで、仲間と目を合わせたユウマ。最優秀賞。つまり、全国1位――。

 ある審査員の講評にはこう書かれていた。「未熟な踊り手は一人もいない。奇跡だ」 

そして次の世代へ

 地元に凱旋(がいせん)したユウマらを待っていたのは、夏の甲子園で起きた「金農フィーバー」ならぬ「花農フィーバー」だ。全国一の踊りを生で見たいと、これまで以上に公演の依頼で引っ張りだこになった。

 秘伝継承者の責任も重い。課題は世代交代。「後継者を育てるまで、卒業させないからな」。大野の言葉は最近、あまり冗談に聞こえなかったりもする。

 それでも後輩たちは一歩ずつ、自分のペースで口唱歌(くちしょうが)や太鼓の試験を乗り越えていく。その姿を見る度にユウマは、いつかの自分を重ね合わせる。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 「伝統」はきょうも、どこかで回り、受け継がれていく。(高校生の登場人物はすべて仮名です、完)(文・菅原智、写真・菅原智、佐々木紀明)

無断転載禁止
542677 0 部活の惑星 2019/04/25 05:20:00 2019/06/28 09:43:45 2019/06/28 09:43:45 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190417-OYT8I50027-T.jpg?type=thumbnail

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