夢に向かって撃て!(3)

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明治大付属中野中・高(東京都) 射撃部

こんな話です

 射撃部に入部した当初は、決して群を抜いた存在ではなかったヒトシ。彼を次世代エースに成長させたもの。それは、同期入部のイケメン射撃手・タナベとの切磋琢磨(せっさたくま)と、自身の弱さへの気づきだった。

▽過去の連載
 夢に向かって撃て!(1)(2)

華麗なるライバル

 今でこそ、明大中野射撃部を背負う次世代エースに成長したヒトシだが、入部当初はずば抜けた存在ではなかった。

 ライフルを使った練習が始まってしばらくたったころ、中1向けの初の記録会が行われた。座ったまま的を狙う形式で、1発10点満点、弾数は20発。

 「ヒトシ、197点!」

 お、もしかして俺ってセンスある? そう思った直後……

 「タナベー!! に、にひゃ、200点満点っ!!」

 まじか!? 同じ1年のタナベに完璧な射撃を見せつけられたのだ。

 同期のライバルに完膚なきまでにたたきのめされた彼の気持ちを例えるなら、こんな感じ。

 〈タナベ半端ないって、もぉ~。ルックスもイケメンやのに、射撃までめっちゃうまいんやもん……。そんなん出来ひんやん普通。完璧や、全部完璧や。どうやったらタナベみたいになれるんやろ?〉

 というわけで、ヒトシにとって、タナベは特別な存在になった。

 「きょうは何点だった?」

 練習後でも気になり、いちいち自分と比較してみる。タナベにあって、自分にないもの……。やっぱり圧倒的に美しい射撃フォームだ。あれをマネするには、射撃時にもぶれない強い体幹が必要だ。

 嫌いだった筋トレにも、よりいっそう熱が入った。

膨らんだ不安

 ヒトシがタナベと並ぶ存在と認められるようになったのは、中学3年の4月のこと。タナベとペアを組み、部を代表して、大会に出場することになったのだ。

 メンバーに選ばれた時は、「スコアではヤツには負けない」と気合満点だったヒトシ。だが、大会当日、予想もしなかった心境の変化に襲われた。

 プレッシャーだ。

 2人の合計点で順位を競うペア戦は初めての体験。タナベのスコアはある程度、計算できるので、おそらく順位は自分のデキで決まる。

 「もし俺がミスって、足を引っ張ったら……」

 出番が近づくにつれ、心の中で不安が、2倍、3倍、5倍……と膨らんでいった。

 心の乱れは、射撃の乱れ――。先に射撃をしたヒトシだったが、狙いは定まらず、全く中心を捉えられない。

 「すまん……」

 あり得ない失敗の連発に、ヒトシは、言葉少なにライバルに後を託した。

 こんなはずじゃないのに……。ぼうぜんとするヒトシの前で、タナベはいつも通り、最高の射撃を見せた。

 結果は全体の4位。自分が実力を発揮できれば、表彰台にも上れたはずだった。

筋力より技より

 心の強さ――。あの日から何度、研究ノートに書き連ねた言葉だろう。タナベに憧れ、ひたすら筋力や技術を磨いていた自分。だけど、真に見習うべきは、彼の心だったのかもしれない。

 仲間のために頑張りたい。ライバルに負けたくない。その気持ちは尊い。だが、1mmが勝敗を分ける射撃の世界では、それすら雑念。一度、ライフルを持てば、心を無にして的と向かい合わなければならない。

 己の弱さを知り、ヒトシは強くなった。屈辱の試合から半年後、全国の強豪が集まる大会で個人戦6位入賞を果たし、ついに射撃部次世代エース候補に名乗りを上げたのだった。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 夢に向かって撃て!(4)はこちら

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556074 0 部活の惑星 2019/05/09 05:20:00 2019/05/10 09:29:37 2019/05/10 09:29:37 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190424-OYT8I50017-T.jpg?type=thumbnail

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