夢をのせて、発射!(5)
完了しました
普連土学園(東京都) 理科部
こんな話です
昨夏、ロケット甲子園に2度目の挑戦をしたノリカらチームMERN(メルン)。1回目の打ち上げは目標高度近くまで飛んだものの、ロケットに搭載した生卵が割れてしまい記録なしに。チームは2回目の打ち上げを前に、大きな決断を下す。高度を犠牲にしても、卵を守りにいく作戦だった。
がむしゃらに進んだ軌道。その先にパリ。

2回目の発射を前に、チームMERN(メルン)の作業テントは慌ただしかった。ロケットに搭載する生卵を守る緩衝材を増やす作業だ。
緩衝材といっても、要は、割れ物などを
多少の重量アップはかまわない。落下時にどんな力がかかるのかを推測し、弱そうなところを狙って緩衝材を詰めた。
どこまで防御力がアップするかは分からないが、人事を尽くして天命を待つ。4人は覚悟を決め、発射台に向かった。
2回目も発射スイッチを押すのはルミだ。
「3、2、1」。カウントダウンを終え、離陸したロケット。今回も軌道はバッチリ。ミニパラシュートは相変わらずイマイチだが、これも想定の範囲内だ。
回収したロケットの高度を確認。2回目の目標の253mに対し233m。悪くない。あとは卵3個が無傷かどうか――。
ノリカは意を決し、緩衝材を取り除き始めた。
「一つ目オッケー」。審査員が宣言する。二つ目も無事。そして運命の三つ目は……
「オッケー!!」
「きゃぁぁーーー」。ミナ、エリコ、ルミの3人は悲鳴のような叫び声を上げ、跳び回った。一方のノリカは、全身の力が一気に抜けた。記録が、残った。
優勝 国際大会へ
チームが残せたのは、記録だけではなかった。
その後、行われた表彰式。「優勝チーム……普連土学園、チームMERN!!」
強豪校がロケットを見失うなどのハプニングがあったものの、記録を残せた3校の中でも圧倒的な好成績。難度の高い今回の規定に苦しめられたのは、自分たちだけじゃなかった。
想定外の結果に喜びを爆発させた4人――となるところだけど、表彰式後、4人が見せたのは少し複雑な表情。実は優勝校には、2019年6月にパリ航空ショーで開催される国際大会への出場権が与えられる。世界の強豪と渡り合うにはどうすればいいのか。喜びよりも緊張と不安が心に押し寄せてきた。
「新兵器」開発中
2019年が明けたいつもの理科室。4人は国際大会出場に向けて、真剣な表情で作業にあたっていた。いつもは電動ノコギリの音が響き渡るのだけど、最近は少し様子が違う。
課題の一つがサイエンス・イングリッシュ(!!)。国際大会では、ロケットを飛ばすだけでなく、工夫した点を英語でプレゼンしないといけないのだ。
「空気抵抗……う~ん。エア・レジスタンス?」「おっ、そのままだけど正解♪」なんて、繰り返し。大会までにやらなければならないことが山ほどある。
一方、ノリカの手にあるのは、卵を守る新兵器・発泡スチロール。強豪・アメリカのチームが使っているのを動画で見た。今は、これで生卵が動かないように固定する方法を実験中だ。
かる~いノリで始めたロケット製作。無我夢中でやっているうちに気づけば、パリの空を目指すようになっていた。
最近は“ロケット女子”と呼ばれることもあるけど、確かに。この4年、私たちが経験した“変化”は大型ロケットが描く軌道そのものだったかも。
どこまでも繊細で、どこまでもまっすぐに。世界でも、私たちらしい軌道を見せつけたい。
ノリカは今、そう思っている。(高校生の登場人物はすべて仮名です、完)(写真・隅谷真 文・山田佳代)