和歌の高嶺に腕を振りつつ(2)

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富士高(静岡県) 百人一首部

こんな話です

 競技かるたの名門・富士高校百人一首部に入部したマイコとアユミ。いずれもかるた経験者として、周囲の期待を集めるが、圧倒的な強さを誇るアユミに、マイコは挑んでは負け続ける。どうすればアユミに勝てるのか。マイコは秘策を思いつく。

▽過去の連載

 和歌の高嶺に腕を振りつつ(1)

好敵手 天賦の耳なら 努力の手

 競技かるたの名門・富士高校百人一首部の練習は基本、部員同士の練習試合で進む。

 マイコとアユミも入部直後の高1の4月下旬、初めて50枚の札を挟んで向かいあった。

 アユミ「ヨロシクね、イイダさん」

 マイコ「アオヤマさん、お手柔らかに……」

 かるた教室に通っていた経験者として、期待を集めていた2人。初対戦はまわりからも注目されたし、試合前のあいさつも何だかよそよそしい。

 小学生時代から上級クラスで腕を磨いていたアユミは新入部員で唯一、「初段」の段位を持つ腕前。この日の試合はハンデ戦で行われた。

 通常は、相手陣の札を奪えば、自陣の札を1枚減らせるところを、マイコは2枚も減らせる。

 「これなら勝てるんじゃ?」

 そう思って臨んだ初陣は、あっさり終わった。相手陣の札を取るどころか、自陣の札までアユミにさらわれ、9枚差の圧倒的な敗北を喫したのだった。

12枚差の完敗

 かるたの勝敗を分ける一つの要素が、耳の良さだ。

 例えば、同じ「あ」で始まる札でも、その後に続く文字が違えば、「あ」の発音は微妙に異なる。それを聞き分けることができれば、相手よりも早く動き出せる、というわけだ。特に自分から距離がある相手陣の札を取るには耳の能力が問われる。

 あとから知った話では、アユミはピアノを習っていた経験もあり、絶対音感の持ち主なんだとか。どうりで強いわけだ。

 百人一首部では、誰と戦って何枚差で決着がついたのかを毎日、欠かさずノートに書き残す。マイコの記録に基づき、「VSアユミ戦」を振り返ると――。

 ■5月25日、初めてハンデなしで対戦。3枚差で負け。
 と、ここまではよかったけど、

 ■6月19日、「3度目の正直」の3戦目。……12枚差で敗北。
 完膚(かんぷ)なきまでにたたきのめされ、意気消沈。

 〽風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな

 頑強な岩に打ちつけては砕け散る波のように、マイコの心も(たた)きのめされたのだった。

ついに歓喜の夏

 「何とかして、アユミに勝つ方法はないものか」

 アユミの強みは相手より一歩先んじられる耳。これは天賦(てんぷ)の才みたいなもので、一朝一夕に追いつけるものではない。

 全体練習が終わってからも毎日、練習場が閉まるギリギリまで居残り練習を続け、思いついたのが「払い」の特訓だ。

 いかに最短距離で動き、トップスピードで札を触れるか。指の伸ばし方に、手首の振り方……。無駄をなくして、コンパクトに「ビシッ!!」と決める。

 払いがうまい先輩をマネして、何度も何度も札を叩く。授業中の居眠りで札を取る夢を見て、机を叩いちゃったのにはさすがに驚いたけど(笑)。

 敗北と練習を繰り返して迎えた高1の夏。マイコのノートについに歓喜の二文字が刻まれた。

 ■8月7日、アユミに3枚差で勝ち――。
 ギリギリだけど勝ちは勝ち。

 「まだ実力差はあるけど、アユミをライバルと思っていいのかな」。少し自信がついた。

 対抗心を燃やしたのはアユミも同じ。

 「同学年には絶対に負けたくなかったのに!!」

 入部当初からは、想像もできなかったマイコの急成長は、後にアユミをさらなる進化に導くことになる。好敵手の存在はいつだって、人を強くするのだ。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 和歌の高嶺に腕を振りつつ(3)はこちら

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600066 0 部活の惑星 2019/05/28 05:20:00 2019/05/29 11:05:03 2019/05/29 11:05:03 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/05/20190522-OYT8I50016-T.jpg?type=thumbnail

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