和歌の高嶺に腕を振りつつ(4)

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富士高(静岡県) 百人一首部

こんな話です

 名門・富士高校百人一首部に入ったマイコとアユミは高2の夏、ついに全国大会に臨んだ。優勝候補との死闘を制し、勝ち進んだ団体戦の準々決勝。勝負の行方はマイコとアユミの2人の試合に委ねられることになった。

▽過去の連載

 和歌の高嶺に腕を振りつつ(1)(2)(3)

かげろうに 頂きかすむ 炎暑かな

 クーラーが利いたバスから降りると、照りつける日差しでじわりと汗がにじむ。昨年7月、決戦の地を踏んだマイコとアユミは、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

 滋賀県大津市の近江神宮。百人一首の一番歌を詠んだ天智天皇がまつられる「かるたの聖地」であり、高校日本一を決める「全国高等学校かるた選手権」の舞台にもなっている。

 県予選を勝ち抜いた名門・富士高校が目指すのはもちろん全国の頂点。2年生とはいえ、2人に期待されるのは、勝利だ。

全国大会で快進撃

 トーナメントで争う団体戦。富士高校は快進撃を見せた。

 会場が沸いたのは3戦目。過去11度の優勝を誇る男子校・暁星高校(東京)との対戦だ。こっちは歴代最多の優勝12回とは言え、最近は分が悪い。日本一になるには、絶対に越えなければならない壁だ。

 「いくぞぉぉぉー!!」

 さすが強豪。“男子力”全開の野太い声は経験したことないど迫力。サブで応援席にいたマイコまで思わず気おされた。

 アユミは接戦の末、敗れたものの、ここで鬼気迫る戦いを見せたのは、大会を最後に引退する3年の先輩たち。すさまじい気迫で格上相手に一歩も譲らず、ねばり強く札を払い続けた。

 3対2。息詰まる戦いを制した瞬間を、マイコとアユミはきっと忘れない。放心状態で汗をぬぐう先輩、応援席で涙を流し喜びを爆発させるOB……。名門の看板を背負う重さを知った。

志願の準々決勝

 「私に行かせてください!!」

 迎えた中津南高校(大分)との準々決勝。2人は出場を直訴した。先輩たちは激戦を終えたばかり。チームのために少しでも力になりたかった。

 勢いに乗る富士高校は先輩たちがまず2連勝。マイコとアユミら残る3人のうち1人でも勝てば準決勝進出が決まる圧倒的優位に立ったが、ここからが全国の厳しさだった。

 先に決着がついたのはマイコの方。いま振り返ると、焦りがあったのかも。終盤の勝負所、読み手の声に瞬間的に体が動いたが、「しまった!!」と思った時には、札を払っていた。痛恨のお手つき。先輩も同時に敗戦が決まり、これで2対2。

 最後の1人、アユミも苦しかった。この時点で自陣には7枚も札が残っており、相手陣はわずか2枚。普通なら諦めてもおかしくない場面なのだが……。

 「まだまだここから。絶対に勝つ!!」と、怒濤(どとう)の連取、連取で、あっという間に1枚差。マイコも奇跡を信じ、必死に声を張り上げる。

 「アユミ、いける!!」

 小さく(うなず)いたアユミは畳の上のかるたに視線を落とし、最後の気力を振り絞る。

 「絶対、絶対、優勝する――」

 大会を終えた帰りのバス。隣同士に座ったマイコとアユミは車窓の景色をぼーっと眺めていた。

 「もしも、あのときに違う札が読まれていたら……」

 「もしも、私じゃなくて先輩が試合に出てたら……」

 逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり

 子ども心に抱いた憧れで、足を踏み入れたかるたの世界。初めて経験した大会は、その命を削るような戦いの厳しさと楽しさを教えてくれた。

 次こそは、この舞台でチームを勝利に導く――。言葉交わさずとも、ダブルエースの思いは同じ。高嶺(たかね)を目指す本当の戦いが今、始まろうとしていた。(高校生の登場人物はすべて仮名です、完)(写真・文 菅原智)

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600083 0 部活の惑星 2019/05/30 05:20:00 2019/06/28 11:08:03 2019/06/28 11:08:03 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/05/20190522-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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