少年よ 騎士道をゆけ(2)

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札幌大谷中・高(北海道) フェンシング部

こんな話です

 強い男に憧れ、小学校時代から札幌大谷フェンシング部の練習に通い始めたコウジ。入学と共に、次期エースとしての期待を集めるが、なかなか白星がつかない。実はコウジのフェンシングには根本的な欠陥があった。

▽過去の連載

 少年よ 騎士道をゆけ(1)

前へ前へ、ガンガン。そしてポキッ――

 アン、ドゥ、トロワ!!

 アン、ドゥ、トロワ!!

 体育館からフランス語が聞こえてくれば、それはフェンシング部が練習を始めた合図。ヨーロッパの騎士道が由来とされるだけに、フェンシング用語は基本、全てフランス語だ。

 前回、出てきた「アレッ」というかけ声は「試合開始」という意味だし、試合前後の「気をつけ、礼」は「ラッサンブレ、サリュー」。入部したての中1はまず、この呪文のような用語を覚えていく。

 ただ、小学校時代からの経験者・コウジは“飛び級”の別メニュー。ブツブツとフランス語を唱え続ける同級生3人を尻目に、入部直後から先輩たちとの実戦練習に加わった。

 もちろん将来のエース候補として期待を集めていたのだけれど……。

「超・攻撃的」

 「か、勝てん」

 入部早々、コウジは大きな壁にぶち当たった。いくら小学生の頃から練習に参加していたとはいえ、その頃はあくまでお遊び。チームの戦力にするために、本気でコウジを育てにきた先輩たちは容赦なかった。

 当時、コウジが理想としていたのは「超・攻撃的フェンシング」。幼い頃に学んだ空手の精神でひたすら前へ前へ、ガンガンと突っ込む戦いだ。「武道家たるもの、後ろに下がったら負けだ」と思っていたし、何より攻撃は最大の防御。そう信じていた。

 ただ、そのスタイルが根本的に間違っていたらしい。

 部内では「コウジ、力入れすぎ問題」と呼ばれていた。己の拳で戦う空手と違って、フェンシングの武器は1mほどもある剣。拳と同じ感覚で力を込めて剣を突きだすと、どうしても剣先がぶれてしまい、狙い通りの場所を突けないのだ。

 力みすぎた一撃は、かわされれば大きな隙も生む。先輩たちはまるで怒り狂ったウシをひらりとかわすマタドールのように、コウジを翻弄(ほんろう)し続けたのだった。

高価な代償

 「力入れすぎ問題」が傷つけたのは、コウジのプライドだけではない。家計も少なからず圧迫した。

 見た目と違って、フェンシングの剣って実は軟らかい。突きを受けても、ぐにゃりと曲がって衝撃を和らげてくれるので、剣道の竹刀みたいに痛くもない。ただ、その分、コウジのように全力で相手を突くと、

 「ポキッ☆」

 かわいらしい音と共に折れてしまう。

 折れた剣は付け替えればいいが、購入はもちろん自腹。その額、なんと1本約2万円!! コウジは当初、1か月に1本ペースで剣を折っていたから、

 「アンタ、また折ったの!? もういいかげんにして(泣)」

 という母親の悲鳴が自宅に響き渡ったのは言うまでもない。

 このままではいろいろヤバイ。追い込まれたコウジだが、先輩たちから何度、「体の力を抜け」と言われても、なかなか感覚がつかめない。

 「シュッ、シュシュシュッ!!」

 とにかく肩の力を抜いて繰り返し突きの練習。(ちょう)のように舞い、蜂のように刺す。柔と剛。何となく目指す理想像は見えているのだけど――。

 真の強さとは何か。ヨーロッパ生まれの騎士道は容赦なくコウジに問いかけてきたのだった。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 少年よ 騎士道をゆけ(3)はこちら

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662231 0 部活の惑星 2019/07/02 05:20:00 2019/07/03 09:27:26 2019/07/03 09:27:26 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190628-OYT8I50004-T.jpg?type=thumbnail

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