少年よ 騎士道をゆけ(3)

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

札幌大谷中・高(北海道) フェンシング部

こんな話です

 「力入れすぎ問題」からの脱却を目指すコウジは、コーチから“必殺技”を教わりながら成長していく。そして中3の夏に出場した全国大会。コウジはこれまで味わったことのない不思議な感覚を経験する。

▽過去の連載

 少年よ 騎士道をゆけ(1)(2)

老コーチが伝授した型。神髄見えた

 「コウジ。ちょっといいか」

 空手でクセになった「力入れすぎ問題」に悩むコウジはある日、練習中に一人の老紳士に声をかけられた。

 下野謹也(きんや)コーチ。フェンシング歴約60年にして、札幌フェンシング協会の会長も務める御年87歳のレジェンドだ。(りん)としたその巨躯(きょく)は、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムを彷彿(ほうふつ)とさせる。

 「ハイッィィィ」

 直立不動で返事をしたコウジに、コーチは口ひげをなでなで穏やかに語りかけた。

 「お前はこの型を(みが)いてみろ。これならパワーが生きるかもしれん」

 言うや(いな)や、老騎士は右手に持った剣を一度大きく左に払い、続けざまに鋭い突きを()り出した。その間、コンマ何秒。流れるような動きと突きの迫力に、そばで見ていたコウジは思わずごくりとつばをのみ込んだ。

 下野コーチの教えてくれた型はこうだ。右利きの相手剣士が自分の左半身めがけて攻撃してきた瞬間、相手の剣を思い切り外に払う。すると相手の胸が大きく開くので、そこをめがけて、ズドンと突きを繰り出す。

 確かにこれならパワーも生きるし、力入れすぎで微妙(びみょう)な剣先のコントロールが苦手でも、ポイントは奪えるはずだ。

 「これは、俺のために存在するカウンター攻撃かも。下野の言葉――恐るべし」

 目を輝かせたコウジを見て、老騎士は優しくうなずいた。

「あれっ?」

 自慢のカウンターを試す絶好のチャンスが訪れたのは中学3年の夏。全国大会の団体戦だ。

 全国大会とは言っても、中学では競技人口が少ないだけに、北海道では地区予選はなく、申し込みさえすれば出場可能。名門・札幌大谷のフェンシング部でも、「中学生活最後の思い出」みたいな感覚で3年生が出場していたのだけど、コウジはここで騎士道の神髄(しんずい)を少しだけ味わうことになった。

 1チーム3人でフルーレ、エペ、サーブルの3種目を戦い、先に2勝したチームが勝ちとなる団体戦。それは順調に勝ち進み、迎えた3回戦のことだった。

 1試合目に出場したコウジは試合開始直後から相手の猛攻にさらされた。相手の攻撃をさばいては下がり、さばいては下がりの繰り返し。前へ前へと出てくる敵にこれまでなら、自分も真正面から反撃していたのだけど、途中で気づいた。

 「あれっ? 相手の動きが見える」

 アドレナリンは全開。だけど、頭の中はいたって冷静。いつもなら、あまり聞こえない仲間の声援もクリアに脳内に響く。下野コーチに教えてもらったパワーカウンターも面白いように決まり、下がり続けて、圧勝してしまったのだ。

 下がっても勝てます――まるで、進学校の野球部を取り上げた本のタイトルみたいだけど、一皮むけたコウジの活躍もあり、札幌大谷は全国準優勝という快挙を成し遂げたのだった。

高1の春

 「高校ではこのメンバーで全国制覇(せいは)」。中高一貫の札幌大谷で自然と次の目標ができたコウジだったが、高1の春、衝撃(しょうげき)の事実を知る。

 「俺以外、部活やめるってよ」

 なんと高校フェンシング部で入部届をだした同級生はゼロ。

 「強い騎士」を目指すコウジを次に待ち受けていたのは、孤独との戦いだった。(高校生の登場人物はすべて仮名です)

 少年よ 騎士道をゆけ(4)はこちら

無断転載禁止
662236 0 部活の惑星 2019/07/03 05:20:00 2019/07/04 09:27:58 2019/07/04 09:27:58 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190628-OYT8I50006-T.jpg?type=thumbnail

おすすめ記事

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ