少年よ 騎士道をゆけ(4)
完了しました
札幌大谷中・高(北海道) フェンシング部
こんな話です
高校に進んだコウジを待っていたのは、ひとりぼっちの部活動だった。孤独にさいなまれ、己の剣を失いかけていたとき、後輩たちが入部。新たな仲間と共にコウジは再び輝きを取り戻すのだった。
▽過去の連載
孤独、仲間の存在。「強さ」って何だろう

「部活やめる感じ?」
「おう、やめるわ」
「そっか、分かった……」
中学入学以来、同じ釜の飯を食ってきた同級生3人から、高校進学を機に部活をやめると聞いたとき、コウジは軽くうなずき、その場を立ち去った。
「他のスポーツをやってみたい」「勉強に集中したい」。やめる理由はそれぞれ。だけど、みな新しく挑戦したいことがあるって点では共通していた。
あえて引き留めなかったのは、自分が空手をやめ、フェンシングを始めたときのことを思い出したから。
「好きなことをやるのが一番だ」。自分をかわいがってくれていた空手の師範はそう言って、自分を送り出してくれた。これまでその言葉にどれだけ励まされたことか。
何も言わなかったのは、3年一緒に戦った仲間たちへの、コウジなりの精いっぱいのエールだった。
連戦連敗

とは言うものの、やはり……
「さ、寂しい」
高校フェンシング部男子の1年はコウジのみ。さらに2年の先輩はゼロで、3年生は一人だけ。だから、唯一の先輩が夏の大会で引退すると、すぐにひとりぼっちになってしまった。
全国大会どころか、試合のメンバーすらそろわない。練習相手だって、中学フェンシング部の部員たち。素振りや筋トレといった練習一つとっても相談できる先輩がいないから、自分のやり方で合っているか不安で、すごく孤独だ。
そんなメンタルは剣にも表れた。他校との練習試合では連戦連敗。勝てるはずの相手に1ポイントも奪えない日もあり、全国2位のプライドも全国制覇の夢も完全に打ち砕かれた。
どん底から復活できたのは、やっぱり仲間のおかげだ。高2の春、入部してくれた3人の後輩たち。団体戦でチームが組めるようになったのがうれしかったし、「コウジ君」なんて言って、自分を慕ってくれる姿にこんな気持ちも芽生えた。
「いつまでも自分のことだけ考えていちゃいけない。俺が先輩なんだから」
戦隊ヒーロー
高2の夏、コウジは高校に入って初めての団体戦に臨んだ。順調に地区予選を勝ち抜き、迎えた全国の舞台。試合を控え、ガチガチに緊張した表情を浮かべる後輩を、コウジはいじるだけいじり倒した。
「緊張してる? ダサッ」
「コウジ君、うるさい」
「どうせ負けるんだから、俺に任せとけって」
「いや、俺、絶対負けねぇし!!(タメ口)」
よし、これで準備OK。いつもの放課後のいつもの感じ。ちょっぴり生意気だけど、みんな力を出せるはずだ。
この日、コウジ率いる札幌大谷は見事、団体ベスト8の好成績を収めた。
仮面ライダーに憧れて始めたフェンシング。これまでは自分の強さを極める1対1の戦いだとばかり思っていたけど、大切な仲間と出会った今、それもちょっと違うとコウジは思う。
「一人で戦う仮面ライダーもいいけど、みんなで戦う戦隊ヒーローも格好いいし、楽しい!!」
たぶん「強さ」って様々な意味があるのだろう。そしてこの先も騎士道を歩めばきっと、僕はいろんな強さに出会えるはず。だから――
「シュッッッッッッ!!」
コウジはきょうも無心で、銀色の剣を繰り出す。(高校生の登場人物はすべて仮名です、完)(写真・文 菅原智)