男だらけの舞台で(5)

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逗子開成高(神奈川県) 演劇部

こんな話です

 鳥沢先生が書き下ろしたオリジナル台本「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」とともに全国に挑んだ俺・東山ら逗子開成高校演劇部。初出場ながら見事、最優秀賞を獲得し、全国の頂点に立った教え子たちの姿を鳥沢先生は特別な思いで見つめていた。

▽過去の連載
 男だらけの舞台で(1)(2)(3)(4)

栄光の瞬間。あるリベンジ物語の結末

 幕が下りた後も続いたその日の万雷の拍手を、俺は一生、忘れることはないだろう。

 7月下旬、佐賀県で開かれた「第43回全国高等学校総合文化祭 2019さが総文」の演劇部門。全てを出し切った俺たちは、これまでにない高揚感と心地よい疲労感に満たされ、ハイタッチを繰り返した。

 初めて挑んだ全国の舞台。やれることはすべてやった。

 その後の表彰式、歓喜の声やすすり泣きが交錯する会場で、最後に読み上げられたのは俺たちの作品だった。

 「最優秀賞 ケチャップ・オブ・ザ・デッド!!」

 全国初出場の男だけの演劇部が高校演劇の頂点に立つ歴史的快挙。それは同時にある男の人生をかけた“リベンジ”が結実した瞬間でもあった。

屈辱の敗退

 話は9年前にさかのぼる。

 2010年12月下旬、彼はやり場のない悔しさに一人震えていた。全国大会への切符をかけて福島市で開かれた東北大会。彼が主演・演出を務めた山形東高校演劇部はまさかの敗退を喫した。

 完璧な演技だったはずだ。

 演目は、坂口安吾の傑作「桜の森の満開の下」。山で旅人を襲っては、気に入った女性を妻にしていた山賊が、自分以上に猟奇的で妖しい美女に出会い、狂い破滅していく物語だ。

 高校演劇でよくある青春の葛藤とは無縁だが、安吾文学の狂気に満ちた美しさをとことん追求できたはずだ。

 なぜ自分たちの表現が理解されないのか。その日、彼――コーチの鳥沢先生は心に誓った。

 「いつの日か、審査員全員がぐうの音も出ない作品を作る」

託された思い

 執念のリベンジが始まった。

 まずは志望校を文系の難関大学から美術系の大学に変えた。無事合格すると、演劇評論家のもとで「表現とは何か」について学び、卒業後はまっすぐに高校教師として高校演劇の道へ。

 周囲からは「もったいない」と言われたが、高校演劇は一人芝居から大人数のミュージカルまで様々なジャンルが競う異種格闘技のような世界。「ここで最高の演劇を作り、あの時の借りを返したい」と思った。

 卒業後、逗子開成に着任し、演劇部のコーチになって驚いた。当時、中3だった俺や中井、西野、南、北出……。舞台や映画が大好きで、それでいてビンビン心に伝わる粗削りな個性を持ったやつらがたくさんいた。

 だから、一度、地元・山形の高校に転任して戻ってきた後、ガタガタになった演劇部を目の当たりにしても、先生は決して諦めることはなかった。

 書き上げたのが「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」だ。

 9年前と同じ。高校生の等身大の悩みや分かりやすさとは無縁。それでもいい作品は人の心を動かすはずだし、このメンバーなら演じ切れる。先生は思いを託してくれた。

 3人の大学生と1体のゾンビの出会いで始まる物語は、生きる意味を見失い、歩きさまようゾンビで街があふれかえるシーンで終わる。

 ゾンビが意味するものは人の心に潜む孤独そのもの。この2年、悩み抜いた俺たちだからこそ、伝えられたメッセージがあったんじゃないかと思う。

 このとき、この場所で、このメンバーがいたからこそ生まれた「ケチャップ・オブ・ザ・デッド」。それは「生きる」が生み出した奇跡の作品だった。(高校生の登場人物はすべて仮名です、完)(写真・米田育広、文・児玉森生)

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1228257 0 部活の惑星 2020/06/05 10:00:00 2020/06/17 11:22:51 2020/06/17 11:22:51 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/12/20191227-OYT8I50010-T.jpg?type=thumbnail

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