響け なまはげ太鼓(2)
完了しました
男鹿海洋高校 郷土芸能部
こんな話です
中学3年だったユウキは、秋田市のショッピングセンターで、男鹿海洋高校郷土芸能部のなまはげ太鼓に衝撃を受けた。熱くなれるものを感じたユウキは、進学先に決め、受験にも合格。体力づくりをしながら入学を待ち望んでいた。
▽過去の連載
響け なまはげ太鼓(1)
ついに入部。面をかぶるのはお預けで…。

2018年4月、ユウキは男鹿海洋高校に入学した。その初日。粛々と進んだ入学式も間もなく終わろうかという時だった。
体育館の後ろのほうで「バターン!!」と大きな音がして振り返ると、なまはげたちが乱入してきた。
「おめだちよくきたな!! これから頑張っていくど!」
なまはげたちは野太い声を響かせながら、のしのしとステージに向かって進んでいった。
入学式の恒例ともいえる、新入生歓迎のサプライズだ。ほかの新入生はあっけにとられていたが、ユウキの心は沸き立っていた。
「やっぱ、かっこいいな」
ステージ上で披露されるなまはげ太鼓を見ながら、郷土芸能部へのあこがれを強くするユウキだった。
部活の入部受け付けが始まると、真っ先に入部届を出し、ほかの部に誘われても「俺、もう決めたんで」と断った。
両手にマメ

すぐにでも、なまはげになりたいユウキだったが、顧問のアスナ先生から指示されたのは、太鼓の練習に全力を挙げることだった。
なまはげが太鼓を演奏するのが、なまはげ太鼓。なら、太鼓を上手にたたけなければ話にならない。人を怖がらせる動きや声を習得するのは、その後のことだ。
ユウキら新入部員は14人。放課後、体育館で太鼓の準備をすると、別の場所にあるプレハブ小屋に行く。
体育館で練習するのは先輩たちだけで、新入部員は主にここで太鼓の練習だ。
しかし、新入部員が使うのは、テープで表面の革の穴をふさいだ太鼓。しかも、数が足りない。新入部員は壊れた太鼓をこわごわたたいたり、“素振り”したりして、基本を身につける。
練習は、平日の午後3時半から5時まで。太鼓の練習ばかりを続けるのは体力的にきつい。入学前に走り込んで体力を養ってきたユウキだったが、練習後はヘトヘト。学校からの帰りの列車では爆睡することが多くなった。
両手はマメで血だらけ。疲れを癒やすためゆっくり入浴しようと思っても、しみないよう両手を上げて湯船につかるはめに。
「いつになったら、なまはげになれるんだ…」。練習の合間、思わず、ためいきが出た。
新たな試練
壊れた太鼓での練習や、素振りの日々から解放されたのは、5月下旬。ユウキたち新入部員は入部から1か月以上たってようやく、まともな太鼓の前に立つことが許された。
しかし、それは新たな試練の始まりでもあった。
音を響かせるためには、バチを強くたたけばいいわけではない。バチが表面の革に当たってすぐにスナップを利かせてクイッと切り返さなければならない。寸止めの素振りをくり返したのも、このためだ。
しかし、本物の太鼓には別の難しさがあった。太鼓の革の反動で、バチをはじかれそうになるのだ。この反動は素振りにはないものだった。
ほかにも、演奏のキレを出すための音の強弱のつけ方など、覚えることは山ほどあった。
「こう? いや、こうか…」
ユウキは、家でも手をバチに見立ててテーブルをたたき、“自主練”に励んだ。
早くなまはげになりたい…。その一心で太鼓の練習に取り組む日々はしばらく続き、初めてなまはげの面をかぶることができたのは、夏休みが終わった後だった。
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