響け なまはげ太鼓(3)
完了しました
男鹿海洋高校 郷土芸能部
こんな話です
なまはげ太鼓にあこがれ、郷土芸能部に入ったユウキ。なまはげ姿で演奏がしたい思いを胸に、太鼓の練習に打ち込んだ。穴の開いた太鼓での練習や素振りで訓練を積み、秋も深まった頃、ようやく面を着けて練習することが認められた。
重い。見えない。夢みた姿は超ハード。

「やっとなまはげ姿になれる」
ユウキに“そのとき”が訪れたのは、10月中旬のこと。中3の夏になまはげ太鼓に出会ってから、1年以上たっていた。入部して半年、ひたすら太鼓の練習を続けてようやく許されたなまはげ姿だ。
いざ、鬼のような形相をした面をかぶり、「ケラ」と呼ばれる上下つなぎのワラのような衣装を身にまとうと、
「あれ? 太鼓が見えない…。体も重い…」
まず、目の前にあるはずの太鼓の場所がわからない。鼻の位置にのぞき穴があるからだ。だから、一度かぶってしまうと、その視界のほとんどが奪われるのだ。
そして何より、ケラがずっしりと重かった。先輩たちを見ていると軽そうだし、2kgしかないはずなのに、全身が覆われて動きづらいから、数字以上の重さだ。
とにかく、違和感しかなかった。
何もできない

なまはげ姿になっての練習はさんざんだった。
太鼓の場所がわからないから、振り下ろしたバチが真ん中に当たらない。側面をたたいて手がしびれたり、かすりもしない空振りで前につんのめったり…。隣のなまはげとぶつかることも、バチを自分の面に当ててしまうことまであった。
練習を終え、なまはげの衣装を外すと、汗だくのまま、うなだれた。秋田の10月はもう冬を感じさせる気温だが、ケラはナイロン製で熱がこもりやすいのだ。
「まさか、こんなに何もできないなんて」。これまで培ってきたささやかな自信は打ち砕かれた。
その後も状況は変わらなかった。
太鼓を目で捉えようとすると、面が下を向き、鬼のような面の迫力が台無しになる。
アスナ先生からは、何度も「面が下がってるよ」「下を向きすぎだ」と指摘された。
さらに、太鼓が見えない不安から動きが小さくなっていく。
ユウキは入部以来、面をかぶった時に備え、バチを持つ手を大きく振り上げたり、上半身を揺らしてみたりと、なまはげらしい打ち方を研究してきた。それだけに、先生が撮影した動画を見て思わず目を疑った。
頭より高く振り上げたはずの腕は、肩より少し高いぐらいまでしか上がっていなかった。自分の想像とは全く違う姿がそこにあった。
先輩みたいに
自信を失いかけた時には決まって、ある動画を見た。ユウキが初めてなまはげ姿になる直前、先輩たちがイベントで演奏する様子を撮影したものだ。
茨城県の太平洋に近い屋外ステージ。夜空の下、なまはげたちが照明に浮かび上がっている。体を大きく波打たせるように動かすと、ケラが右に左にキラキラと大きく揺れる。
それでいて、バチは正確に太鼓を打ち、息もぴったり。観客の拍手と歓声に呼応するように、なまはげの声が周りの建物に反響してとどろく。
舞台袖で見守りながら、同じ1年生部員と「先輩、ほんとすげえな!」と興奮した舞台だった。
「俺はこういうなまはげになりたい」。この動画を見てくじけそうになる気持ちを奮い立たせるのだった。
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