響け なまはげ太鼓(5)
完了しました
男鹿海洋高校 郷土芸能部
こんな話です
高校からなまはげ太鼓を始めたユウキの初舞台は1月下旬。緊張しすぎて満足できない内容になった。まもなく、男鹿地域で唯一の面彫師の手によるオリジナルの面が完成。「面にふさわしいなまはげになる」とさらなる努力を誓った。
バチで、声で、縦横無尽に…殻やぶれた夏。

なまはげ太鼓は、驚くほど自由だ。
たとえば、面。色には濃淡があり、ユウキが作ってもらったのは目が覚めるような赤。郷土芸能部にあるどの面より鮮やかだ。部には、赤ばかりでなく青もある。
髪や牙の色も一つひとつ違っており、共通するのは恐ろしげな形相をしていることぐらいだろうか。
そして何より、なまはげの動きそのものが自由だ。演奏するときは、決められた音を出さねばならない。だが、なまはげが縦横無尽に動き回る時間帯の動きはそれぞれに任されている。
オリジナルの面を手に入れた頃から、部内のオーディションを通過することが多くなったユウキだったが、この時間帯の動きが課題だった。
先輩たちは、観客をかき分けて突っ走ったり、演奏再開ぎりぎりに太鼓の前にスライディングしたり、ステージで大きく跳びはねたりと、はじけた動きをしていた。
それなのにユウキは、太鼓の前でそれっぽい動きをすることで精いっぱいだった。
「ちゃんと…」の呪縛

ユウキに足りなかったのは、経験だった。
ステージに立つと、「ちゃんと太鼓をたたけているか。なまはげっぽい動きになっているか」と自問するばかり。不安と緊張から解放されず、はっちゃけられなかったのだ。
郷土芸能部は月に数回、福祉施設や観光スポットなどから求められて演奏する。ユウキは2年になる頃には“レギュラー”陣の仲間入りをし、出演回数を重ねていった。
殻をやぶれたと思えるようになったのは、夏になってから。
8月に演奏した老人ホームでは、お年寄りに近づいて手にしたバチで顔を指し、「最後まで楽しんでってけれ!」と声をかけた。そのお年寄りからは、手を合わせて拝まれた。
10月にあった文化祭では、スマホで動画を撮っていた観客にジャンプして近づき、「しっかりカメラ向けれや!」と声をかけて驚かせた。
「よっしゃあ!」
11月には、郷土芸能部が最大の目標とする“公式戦”があった。「秋田県高校総合文化祭 郷土芸能・日本音楽合同発表会」。最優秀賞に輝けば、翌年夏の全国高校総合文化祭(総文祭)に出場できる。
ユウキは、ほかのなまはげたちとともに
そして中盤。なまはげたちが自由に動き回る見せ場がやってきた。その場で跳びはねる者もいれば、のしのしとステージ上を歩き回る者もいた。
ユウキは、最前列に座る審査員たちの前に歩み出ると、その顔に向けてバチをビシッと指した。
「俺たちは全国へ行く!!」
そう宣言してみせた。
そして結果発表。「最優秀賞、男鹿海洋高校」とアナウンスされた瞬間、ユウキは隣の部員と抱き合い、「よっしゃあ!」と
全国から集まった観客に、自分がほれ込んだなまはげ太鼓を見せられる。この迫力を伝えられる。そのことが何よりもうれしかった。
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