レンズの向こうに(2)
完了しました
群馬県立富岡実業高 写真部
こんな話です
県立富岡実業高校に入学したユメは、友だちのちーに連れられて写真部の見学に。そこで先輩たちが撮影したエネルギーあふれる写真に魅了され、入部を決めた。カメラの操作や、撮影時に自然な表情を引き出すための声かけに悪戦苦闘する日々が始まった。
▽過去の連載
レンズの向こうに(1)
超辛口評価。でも「もっとやっちゃおう」

「幼児性の強い作品だ。真顔で撮られているなら、シュールさがあって悪くはないが、“ニコパチ”では記念写真の域を出ない」
審査委員長を務める写真界の大御所は、ユメたちが提出した作品を見て、いかめしい顔でそう告げた。
ニコパチとは「ニコッとしたところでパチリと撮る」という、安易な撮り方をした写真を皮肉った言葉。誰が聞いたってわかる超辛口の評価だ。
「え、こんなこと言われちゃうの?」
先輩と一緒に参加している「写真甲子園2019」の本選は、まだ2日間残っている。でも、そんなことを忘れてしまうほど、ユメの頭は真っ白になっていた。
写真甲子園に出場
写真甲子園は年1回、夏に開催される。本選は北海道で合宿しながら、毎日出される課題に取り組み、そのつど講評を受けるスタイル。
予選参加数は全国で約500校。それなのに、本選に進めるのは埼玉・茨城・栃木・群馬の「北関東ブロック」でたった1~2校って、ちょっと厳しすぎない?
本選に出場するのは1チーム3人だけど、予選に提出する写真は部員総出で取り組むもの。特に、先輩が5人しかいなかったから、1年も立派な戦力なのだ。写真のモデルや手伝いに大忙しだった。
だから6月に本選出場が決まったときはみんな大喜び。ユメは本選にも先輩の代役で参加することになり、気合を入れてきたのに…。
「はっきり言われたね」
初日の講評後、みんなで泊まっているコテージからお風呂に向かって歩く途中、前を歩いていたセラ先輩がつぶやいた。
ユメたちの入部前から準備してきたのは先輩たち。それなのにあんなに辛口の講評をもらっちゃって、ショックなんじゃないか…。
「だけど、そこまで言うことなくない?」
「えっ」
ハッとして顔を上げると、目をギラギラと輝かせるセーラ先輩がいた。
「うん!! このまま貫こう!! もっとやっちゃおう」
隣にいるモモ先輩も、当たり前じゃないか、と言わんばかりにニヤリと笑う。
…さすが先輩たち。でも辛口コメントに燃えてきたのは先輩たちだけじゃない。
「実は私もそう思っていたんです」
ユメもちょっと悪い笑顔を浮かべて、そう応じた。
熱意は伝わる
方針転換。2日目以降も、徹底的に3人全員が写る構図にこだわることにした。
当然、事前の準備は全部なかったことに。撮影場所も構図も一から考え直しになった。
時間はいくらあっても足りず、睡眠時間は1日3時間に。それでも眠気は感じなかった。
あ、だけど、審査委員長の講評を無視したわけじゃないよ。自分たちの姿を豆粒みたいに小さくして北海道の大自然を強調したり、シャッタースピードを遅くして動き回って「ブレ」を出してみたり。
ニコパチだけど、ただの記念写真じゃないものだってある。2日目も3日目も、そう写真で訴え続けた。
「汗をかいて撮影したものが写真に出ている。初日から右肩上がりだ」
熱意は相手に伝わる。自分たちを貫き通した写真に、最後の講評で、あの審査委員長もそう褒めてくれた!
でも、その後に付け加えた「自分たちが写っていない写真も見たかった」の一言。あ、委員長も自分を貫くタイプなんだ。そう気づき、みんなクスリと笑った。