レンズの向こうに(3)
完了しました
群馬県立富岡実業高 写真部
こんな話です
予選を勝ち抜き、写真甲子園2019に初出場したユメたちだったが、審査委員長の大御所カメラマンに厳しいダメだしを食らう。しかし、自分たちの撮影スタイルを貫き、最終日には審査委員長からもお褒めのことばをもらうことができた。
台風襲来。汚泥が覆うグラウンドで…

ゴー。屋外にいるのかと錯覚しそうなほど強くうなる風の音に、ユメは自分の部屋で身を縮こまらせた。
2019年10月12日夜。各地に大きな被害をもたらした「令和元年東日本台風」が、まだ台風19号と呼ばれていた夜のことだ。
「今度の台風けっこうすごそうだよね」
「天気予報でやってた。怖いよね」
前日の放課後、部室に集まったユメやちーたちは、スマホを片手にそんなことを話していた。週末の天気予報を再確認してみるが、何度見ても傘マークばかりが並んでいる。
「台風の写真を撮ってみたい」
誰もそう口にはしないが、カメラ好き同士、そんな気持ちを胸に秘めていることはみんながわかっている…ってことは、先生にも当然わかられているということ。
「未曽有の台風かもしれないので安全を第一に」
先回りでクギを刺されてしまった。残念だけど仕方がないか。
濁流撮影「危ない」
ピコン。部員同士のグループLINEの通知音が鳴った。どうやら誰かがメッセージを送ったらしい。
送信元は2年生のクマ先輩。送ってきたのは1枚の写真だった。
「え、何撮ってるの?」
写真を見たユメは思わずそう漏らした。写っていたのは見覚えのある橋脚。高校のすぐ近くを流れる「
普段はおとなしい川の水面が別人のように牙をむき、茶色く濁った水が勢いよく橋脚をのみ込もうと迫っていた。臨場感のある写真。でも…。
「これはダメでしょ」
「危ないよ!! 巻き込まれたらどうするの」
…だよね。案の定、クマ先輩は他の先輩たちから袋だたきに。
後から聞いたけれど、クマ先輩は家族と一緒に避難していて、その途中で撮っただけだったみたい。危険な単独行動じゃなくて、みんな一安心した。
戻る「彩り」表現
とはいえ、意味のあるいい写真だ。テレビでは福島や長野の被害が紹介されることが多かったけど、被害があったのは群馬も同じ。富岡実業高校でも、グラウンドが浸水するなどの被害があった。
「写真に罪はない」
あの写真を起点に、自分たちにとっての台風19号をテーマに、シリーズものを撮影すると決めた。
ユメたちの頭に真っ先に浮かんだのは、クラスメートの野球部員たち。グラウンドから水が引いても、乾燥した汚泥で地面がひび割れ、練習場所を奪われた。それでも放課後になると練習着に着がえ、駐車場で、グラウンド横の空き地で、以前と変わらないように練習をする。
「この姿を伝えたいよね」
「暗さや重さだけじゃなく、みんなの前向きさを表現したい!!」
災害写真という難しいテーマについて話し合う中、見つけた答えは「彩り」だった。
橋を襲う濁流や汚泥でひび割れたグラウンドなど、茶色一色の世界だけでなく、夕焼けのオレンジや赤、練習場の芝の緑など、様々な彩りの中で練習する野球部員を撮影。復旧が進むごとに、「富実」が彩りを取り戻す様子を表現した。
最後の1枚は、雑草の緑が目立つようになったグラウンド周辺の写真。どれほど大きな災害の後でも、確かに時間は進むのだ。タイトルにもそんな思いを込めた。
「ボク