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    特集

    読売中高生新聞の企画・連載をお届けします。
    海外青少年事情

    (8)フランス 「職業として成立」

    柔道指導者は国家資格

    • 子供たちを指導するガイセイさん(中央)
      子供たちを指導するガイセイさん(中央)

     パリの同時テロで多くの犠牲者が出たことを知り、静岡文化芸術大准教授の溝口紀子さん(44)は、指導者仲間たちの身を案じた。

     1992年バルセロナ五輪柔道女子52キロ級銀メダリストの溝口さんは引退後、フランス女子代表のコーチを務めた経験がある。仲間から届いた無事を知らせるメールなどには「テロは怖いけど、屈しない」と、力強い言葉もあった。不安におびえて暮らす人たちのことを思いつつ、溝口さんは信じている。「こういう時だからこそ、スポーツが子供たちに何かを伝えられるのではないか」

     パリに隣接するブーローニュ・ビヤンクール市。11月初旬、総合地域スポーツクラブ「ACBB」を訪ねると、コーチのセバスチャン・ガイセイさん(40)が、子供たちに柔道を教えていた。4歳児から年齢ごとに分けられたクラスで、鬼ごっこのように走り回ったり、座った状態で組み合って寝技に持ち込んだり。安全なやり方で、子供たちの闘争心をかき立てているのだという。

     このクラブはフランスでも有数の規模で、大人も含めて約850人が通っている。指導歴約20年のガイセイさんも、ここで柔道を学び、指導者の国家資格を取得した。教え子には18歳以下世界選手権のメダリストもいる。

     フランスのスポーツ界は優秀な指導者たちが支えているといっても過言ではない。水泳やアルペンスキーなど様々な競技で、スポーツ指導者の国家資格制度が整備されている。指導者のレベルアップとともに、雇用先を確保するためだ。

     指導者として報酬を得るためには国などの資格が必要である一方、資格があれば民間のスポーツクラブなどだけでなく、国家公務員の身分でナショナルチームのコーチとして働く道もある。

     柔道は、競技団体の中でも資格制度が充実。稽古中の死亡事故を契機に、1955年には指導者の資格取得が国によって義務づけられた。3段階の国家免許のほか、連盟免許もあり、資格取得者が技術を維持、向上させるための合宿やクラブ運営やスポンサーの獲得方法に関する講習もある。フランス柔道連盟のミシェル・ブルース副会長は「指導者が職業として成り立っているし、レベルの高い指導者を育てることで生徒を間違った指導や事故から守り、質の高い柔道の維持につながっている」と制度の利点を説明した。(パリで、田中誠之、写真も)

    日本人考案の指導法 今も

    • 道場に掲げられた八つの心得。上から「礼儀」「勇気」「友情」「自制」「誠実」「謙虚」「名誉」「尊敬」
      道場に掲げられた八つの心得。上から「礼儀」「勇気」「友情」「自制」「誠実」「謙虚」「名誉」「尊敬」

     日本発祥の柔道は、フランスで広く浸透している。世界王者のテディ・リネールら、五輪、世界選手権で多くのメダリストを輩出。2012年ロンドン五輪では、金2個を含む計7個のメダルを獲得した。競技人口(連盟登録者数)は日本の16万人台に対し、フランスは約60万人。フランス柔道連盟によると、その4分の3ほどが17歳以下という。

     戦前にフランスに渡った川石酒造之助みきのすけが普及に尽力。考案した指導法は「川石メソッド」として、今も活用されている。白帯から始めて黒帯になるまで、黄色やオレンジ、緑など帯の色を細分化。習熟度が色によって分かり、子供たちの意欲を刺激するという。

     柔道の創始者、嘉納治五郎が唱えた「精力善用 自他共栄」の精神に象徴される人間教育も広く受け入れられており、6歳の息子をACBBに通わせるジョセリーヌ・ナベさん(39)は「学校ではやんちゃし放題だったけど、柔道を始めておとなしくなった。礼儀作法を教えてくれて助かる」と語る。ACBB指導者のステファン・ブレジョン氏は「柔道の理念が今では日本よりも根付いていると思う」と胸を張った。

    2015年12月18日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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