「好き」が止まらない 「ソロ男」たちの甘美な時間

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 独身のまま40歳の誕生日が来た。そんな私が最近気になる言葉は「ソロ男(そろだん)」。自立し、縛られず自由なライフスタイルを楽しむ独身=ソロ=の男性をちょっとポジティブにそう呼ぶ。これからのしるべになるかもしれない。ソロ男を訪ね歩いた。( 大郷(おおごう)秀爾(しゅうじ)

 そうした独身男性の調査研究で、博報堂が「ソロ男」という言葉を使ったのが2014年。ソロ男は、自分の時間を大切にし、ゆとりある生活を好む傾向があるという。しばしば、趣味に打ち込む。例えば――。

フリーの担ぎ手

みこしを担ぐ飯塚さん(東京都内で)
みこしを担ぐ飯塚さん(東京都内で)

 「セイヤッ、セイヤッ」と、9月の週末、住友不動産に勤務する飯塚淳さん(32)は東京都内の神社の祭礼でみこしをかついでいた。地元住民ではない。祭りの担い手が足りない地域では、みこしの同好会メンバーなどが助っ人に入る。飯塚さんは同好会には所属せず、頼まれたら加勢している。

 5年ほど前、誘われて初めてみこしを担いだ。普段は出さない大声で掛け声をかけ、大通りの真ん中を行く爽快さにはまった。

 5~6月、9~10月は、ほぼ毎週末どこかの祭りに参加し、土曜と日曜に別々の場所で担ぐこともある。「年に1回、祭りの日しか会わない地元の人が、覚えていてくれて『よく来た』と迎えてもらえるんです」。まさに、どっぷり。

 では、祭りのピークを過ぎた冬場はどうするか。もっぱらバイクのツーリングだという。地図でこれまで通ったルートを眺めながら、道中の出来事を思い返すのも楽しい時間だ。

 結婚は「いずれは」と。趣味については「家族ができれば相手に合わせるのも必要で、今まで通りとはいかないでしょうね。理解してくれる相手ならいいんでしょうけど」という展望だ。

 まだ30代前半。そうした出会いもあるだろう。

生け花男子

花を生ける館岡さん(東京都内で)
花を生ける館岡さん(東京都内で)

 次は、同世代の男性を都内の生け花教室に訪ねた。

 SOMPOホールディングスに勤める舘岡謙太郎さん(41)が、真剣なまなざしで花を手にしていた。15年ほど前、当時いたIT企業の生け花教室でこの世界を知った。今は流派の研究会が近く、稽古に力が入る。「枝の向きや配置にもルールがある。その枠の中で個性を出すという奥深さがあります」と教えてくれた。

 デジタル技術を生かしたビジネスを立案する部署で働き、月3回仕事帰りに花と向き合う。「いろんなことを忘れられる。アイデアが生まれるきっかけにもなるので、忙しい時ほどこの時間を大事にしています」

 週末はプロ野球観戦のために球場へ。応援する埼玉西武ライオンズの遠征に合わせて、札幌や福岡など各地を訪ねるのも楽しみの一つだ。「現地の食べ物を楽しみつつ、旅行気分が味わえます」。ああ、球場で飲むビールのおいしさ。年間数十試合をナマ観戦する。

 生活に自分のスタイルがある舘岡さん。率直に尋ねた。周囲から「結婚しないの」って聞かれませんか。

 「聞かれます。でも、家族からせかされることはあまりない。お互い自立した関係が理想なので、同じように考える人に出会えれば」。このまま独身なら、老後は? 「独身者同士で『シェアハウスもいいね』という話になることがあります」。

アラフォーは一人で生きることを具体的に考え始める時期かもしれない。

波とアンモナイト

水野さんのサーフィン歴は40年(true SUMAさん提供)
水野さんのサーフィン歴は40年(true SUMAさん提供)
波のない日は化石を削る水野さん(東京都内で)
波のない日は化石を削る水野さん(東京都内で)

 やはり先輩世代にも聞きたい。

「波を制覇した時の達成感がたまらない」と、東京都内のインテリアデザイナー、水野滋さん(57)は日焼けした顔で笑った。高校生だった1970年代に、アメリカ文化への憧れからサーフィンを始めて40年。仕事が多忙で通えない時期もあったが、独立した30代から再び熱が高まった。いい波の早朝は海へ行ってから仕事場へ。夏場は長いと5~6時間、海に入っている時もある。還暦が視野に入る今も、「まだまだうまくなっている」と感じる。

 波のない休日は、ベランダでアンモナイトなど化石の「クリーニング」を楽しむ。北海道から取り寄せた原石にタガネを打ち込んで周りを削り、ルーペで観察して位置を探る。波乗りとは反対の繊細な宝探しだ。やり始めると、3~4時間。大きなものは直径20センチほどになり、作業に1週間近くかかることもある。

120%満足

 「今の暮らしには120%満足しています」。一度結婚歴があり、「今後も、ご縁があって結婚することはあるかもしれませんが、無理にとは思いません」。ところで、親御

さんやご自身の今後は? 「親は幸い元気でいてくれますが、自分の老後と合わせてやはり考えますね。なるべく人に迷惑をかけないように、経済面での備えはしています」

人車一体

整備がしやすいように、ガレージ内に棚を作った(兵庫県内で、ザウス提供)
整備がしやすいように、ガレージ内に棚を作った(兵庫県内で、ザウス提供)

 兵庫県のクラシックカー愛好家の会社員(50)は4年前、愛車のために1階はガレージ、2階が住居の家を建てた=写真=。「設計は完全におひとりさま仕様です。一人で生きることを決心した時期でもあったのかな」

 子供の頃から車が好きで、海外勤務時代に英国の文化や、その象徴のような英国車に()かれた。車庫には70年代の英国車が2台。「丸いヘッドランプなどデザインに表情がある。年代物は故障しやすく、手のかかる子ほどかわいいという心境です」。週末は近くの山道を走る。スピードは出ないが「『人車一体』の感覚です」。

人の幸せはそれぞれですから

 こうした生活はシングルだからこそ、ですか? 「コストがかかる趣味ですから、結婚していたら出来なかったでしょう。気兼ねなく好きなものに囲まれ、自由な時間と空間を満喫できる。もしかしたら死ぬ間際に後悔するのかもしれませんが、自分の選択に間違いはないと思います。人の幸せはそれぞれですから」

 力強い言葉に、すがすがしさを覚えた。

クルマとどこまでも

ガレージ内。ハーレーはこの後、買い替えた(京都府内で、ザウス提供)
ガレージ内。ハーレーはこの後、買い替えた(京都府内で、ザウス提供)

 京都府の会社員(52)も、愛車のためにガレージ付きの自宅を建てた一人だ。バイクは3台。そのうち、1台は15年近く前に購入したスズキの「カタナ」。既に生産終了しており、「ガレージを作ったのも、いい状態で保管したいという思いからですね」と。ツーリングに出かけるときは、ハーレーで行く。

 車も好きで「同じものに乗り続けると飽きる。色んなタイプに乗りたい」と、軽自動車からスポーツカーまで乗り継いできた。現在はミニバンが愛車だ。

 動画サイト「ユーチューブ」で見た旅のリポートがきっかけで、最近は、車に寝袋を持ち込み、車中泊しながらあちこち巡りたくて仕方ない。昨秋はレース観戦も兼ねて栃木県へ。「手狭で不便なところはもちろんあるんですが、逆に非日常的な空間が面白い」

やっぱり1人より2人のほうが

 結婚については? 「できるならしたいと思っています。やっぱり1人でいるよりも2人の方が心強いですから」。これまでのような生活が出来なくなるのは? 「そもそも、体がいつまでも思い通りに動くわけじゃないですから。助け合える相手がいれば、もちろん合わせます」

趣味に生きるソロ男たち。結婚についてのスタンスも、それぞれだ。

江戸のソロ男たちが残した文化

博報堂ソロもんLABO 荒川和久リーダー(ソロ男)

荒川和久さん
荒川和久さん

 既婚者は家庭生活を通じて承認や達成の欲求を満たします。未婚者の幸福感の源に、消費があります。アイドルの追っかけ、筋トレ、仕事や趣味に時間を費やすなど様々な形がある。幸福の感じ方は人それぞれなのです。

 江戸の町には生涯独身の男性が多かったことが知られています。彼らが子孫の代わりに残したものこそ、食産業、浮世絵、漫画の原型ともいうべき黄表紙など多くの文化だったといえます。

 日本だけでなく、先進諸国を中心に結婚しない人が増えています。社会が変わる兆しかもしれません。ソロで生きることは孤立ではありません。多くの人とつながり、自分自身が多様性を持つことが重要です。

あとがき 自分にとっての豊かさって――

 出会った人たちは、一人の時間を楽しみ、実は趣味などを通して人とのつながりを大事にしていた。年齢を重ねて直面する不安にも向き合っていた。

 家庭を持つ価値観を否定するわけでも、シングルを負い目に思うわけでもなく、自然体。価値観は多様だ。「ソロ」も、選択肢の一つになるのかもしれない。自分にとっての豊かさって何だろうと考えた。

42110 0 トピックス 2018/09/25 17:00:00 2018/09/25 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180920-OYT8I50002-T.jpg?type=thumbnail

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