アンドロイドがオペラを指揮する日~「オルタ3」の奏でる世界

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 最新のアンドロイド「オルタ3」が2月28日、東京の新国立劇場で、オペラの指揮と歌のパフォーマンスを初めて披露した。金属をむき出しにしたアンドロイドが、人間のオーケストラを指揮し、オペラを作り出すという最先端の芸術。そこには、人間の未知なる感情を呼び起こす力が込められているという。プロジェクトの一端をのぞいた。

アンドロイドが生み出すオペラ

機械の体と、肌色の手先と顔を持つ「オルタ3」
機械の体と、肌色の手先と顔を持つ「オルタ3」

 バイオリン、チェロ、クラリネット、ピアノ……。約30人の楽団員の視線の先には、アンドロイドの指揮者が立っている。顔と手先は人の肌を思わせる肌色の素材で作られているが、他の部分は銀色のパーツが剥き出しという姿だ。

 演目はアンドロイド・オペラ「Scary Beauty(スケアリー・ビューティー)」。動き始めると両腕を振り、腰を上下に動かしながら奏者を指揮する。上下左右に振る腕の動きには、機械特有の直線的な様子はない。なめらかなリズムを正確に刻みつつ、ダイナミックにオーケストラを率いる。曲の途中で180度向きを変え、客席に向かってオルタ3がのびやかな声で歌う姿もあった。

 オルタ3は人間とのコミュニケーションの可能性を探るために、ミクシィや東京大学、大阪大学、ワーナーミュージック・ジャパンの4社による共同研究プロジェクトの中で開発された。これまでの「オルタ」2台とは異なり、発声機能や耐久性などが向上している。

見る人によって外見が変わる?

オーケストラの指揮をするオルタ3(中央)
オーケストラの指揮をするオルタ3(中央)

 オルタ3の最大の特徴は、機械が露出したむき出しの体と、年齢や性別を感じさせない顔だ。開発メンバーの一人である大阪大学基礎工学研究科講師の小川浩平さんは「見る人の想像力をかき立てる姿にした」とデザインの意図を語る。見る人によっては、オルタ3は男性にも女性にも、年上にも年下にも見えるという。ちなみに私は、30歳代くらいの女性に見えた。

 一般的にロボットやアンドロイドの外見にはキャラクター性がある場合が多い。男の子だったり女の子だったり、動物のぬいぐるみだったりとその姿は色々だが、見る人はロボットのキャラクター性を、その外見から捉える。反面、オルタ3の外見からはキャラクター性を判断するための特徴がそぎ落とされているため、男か女か、若いのか年上かの判別は見る人に委ねられる。

 プロジェクトを手掛ける音楽家の渋谷慶一郎さんは「観客がオルタ3に自分自身を投影して見る。ある人には笑って、ある人には泣いて見える、鏡のようなものだ。自分の心理がそのまま、オルタ3の姿に投影される」と語る。見る人の心理状態によっては、オルタ3が泣いているようにも笑っているようにも見えるそうだ。その表情に、観客は不安も感動も覚え、その心の動きによって芸術が成り立つという。

 また、オルタ3が「機械の指揮者」であることも大きな効果を及ぼす。特にオペラは、近代ヨーロッパの人間中心主義的な要素が強い芸術だ。そのオペラを、人間ではないアンドロイドが担うことで、観客に大きなショックを与えることになる。渋谷さんは「本来人間が司っている『音楽』が、人間以外の手元にわたった時、人間は不安になる。その不安が同時に、新しい美しさの発見につながる」と語る。

 「オルタ3を見ることで抱く不安やショックが、新しい感情を呼び起こすのでは」と渋谷さんは期待する。その不安は嫌悪ではなく、人間の未知の感情によるものだという。

「人間のいないオペラ」~初音ミクとオルタ3

「Scary Beauty」の指揮中、客席側に振り返って歌う「オルタ3」
「Scary Beauty」の指揮中、客席側に振り返って歌う「オルタ3」

 テクノロジーを使うことで、人間の感情の新しい領域に踏み込む。渋谷さんは10年以上その領域に挑戦してきた。このプロジェクトもその取り組みのひとつだ。

 オルタ3のヒントは、初音ミクが主演するオペラ「THE END」(ジ・エンド)を手掛けた中にあった。3D映像やホログラムなどの技術を駆使し、「バーチャルアイドル」の初音ミクが舞台に立つ。生身の人間が一切登場しない。12年の初演以降、世界各地で反響を呼んでいる演目で、13年のパリ・シャトレ座公演では、「人間のいないオペラ」として、大きな衝撃とともに迎えられたという。「演目が終わった劇場に観客が残り、『これは一体何だったんだ』と議論する姿が印象的だった」と振り返る。ジ・エンドはパリに加え、イタリアやドイツなど世界各国で公演されている。

 渋谷さんは「これまで人間は、人間が表現する歌や演奏、スポーツなどに感動してきた。アンドロイドやロボットなど、人間『のようなもの』に対して感動できる時代が来つつある。人類史的に大きな転換期になる」と期待している。オルタ3はミクとは異なり、リアルな身体を持っているが、人間「のようなもの」であるという点では共通している。

「非現実」のオルタがかき立てる想像力

 大阪大の小川さんは、オルタ3は「日常の世界で非現実を楽しむコンテンツだ」と語る。

 オペラを楽しむという「日常」に、オルタ3という「非現実」が存在する。日常に非現実が存在することで、「どうしてアンドロイドが指揮をするんだろう」と、観客は想像力を膨らませる。想像力が膨らむことで、演奏や舞台に没入できるという仕組みだ。「男女どちらにも捉えられる」オルタ3のデザインも、観客の想像力をより一層かき立てる。膨らんだ想像力で楽しむ芸術が、「Scary Beauty」だ。

 また、オルタ3は観客だけでなく、演奏する楽団員にも影響を与える。楽団員にとって「オペラの演奏」は日常だが、そこにオルタ3という「非現実」が存在することで、「アンドロイドの指揮でも正確に演奏しなければ」という一体感を芽生えさせるという。ここから小川さんは「人と人との新しいつながりの形」を見出そうとしている。非現実の存在を前に、人と人が新しいつながりを作ることができるのであれば、そこから新しいビジネスやエンターテイメントが生まれる、と期待している。「楽団員が一般の人に、楽器がスマホに変われば、それは新しいエンターテインメントにつながりますよね」と話す。

 オルタ3のプロジェクトにはミクシィが関わっている。「日常で非現実を楽しむ」という現象に、大きなビジネスチャンスを見出そうとしているためだ。

新国立劇場でのオペラ~対極の存在を、より極端に

プロジェクト発表会で「オルタ3」を囲んで撮影する関係者ら
プロジェクト発表会で「オルタ3」を囲んで撮影する関係者ら

 今後、オルタ3は世界各地で「Scary Beauty」を公演する予定となっている。また2020年8月には新国立劇場で、オルタ3と子ども100人が出演するオペラを披露する予定だ。東京フィルハーモニー交響楽団なども参加する、さまざまなジャンルのコラボレーションの中心に、アンドロイドが立つことになる。

 表題の「Scary Beauty」の「Scary」には、「怖い、恐ろしい」などの負の意味があり、そこにプラスのイメージを持つ「Beaeuty」の「美しさ」という反対の言葉が組み合わされている。渋谷さんは「『Scary』と『Beauty』という対極のものが同時にある。芸術はもともとそういうものだと思うが、アンドロイドという技術を使って、それをもっと極端にできれば」と語る。「人間のもの」とされてきた芸術が人間の手を離れた時、どんな体験が待っているのだろうか。

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501914 0 トピックス 2019/03/22 11:00:00 2019/03/22 11:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190320-OYT8I50060-T.jpg?type=thumbnail

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