[長崎原爆]<中>父母語れない 心の傷

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

被爆2世 思い受け継ぐ決意

父・山田繁人さん(右)と母・美佐江さん(左)の前で講話を披露した石田久美さんは「いつか、両親の体験も語り継ぎたい」と語った(7月26日、長崎市で)=中司雅信撮影
父・山田繁人さん(右)と母・美佐江さん(左)の前で講話を披露した石田久美さんは「いつか、両親の体験も語り継ぎたい」と語った(7月26日、長崎市で)=中司雅信撮影

 第三者が被爆者の体験を語り継ぐ「交流証言者」として6月に語り部を始めた長崎市の被爆2世、石田久美さん(57)は7月26日、同市の長崎原爆資料館で、来館者を前にあの日の出来事を語った。会場には、初めて娘の講話を耳にする父・山田繁人さん(88)と母・美佐江さん(84)の姿があった。

 母はうどんが嫌いだった。石田さんが中学生の頃、理由を尋ねると、「ウジ虫を思い出す」と返ってきた。「心の傷に触れてしまった」。それからは原爆の話を避けるようになり、両親に体験を詳しく聞いたことはない。語り継ぐのは、清野定広さん(83)の被爆体験だ。

 この街で生まれ育ったのに原爆について何も知らないことが心に引っかかり、2年前に長崎市の証言者養成事業に参加した。清野さんが見た惨状、被爆後も憧れの人への思いを日記につづり亡くなった姉のこと、「米国を憎いと思わない」という真意――。聞き取るうちに、継承とは体験だけでなく、思いも受け継ぐことだと気づいた。

 つらい経験を語るのは、誰にでもできることではない。だから語れない両親の気持ちは理解できる。それでも、「原爆の記憶を後世に伝えようと努力する姿を見てほしい」と考え、両親を講話に招いた。

 終了後、美佐江さんは「本当は私たちが伝えないといけないのに、伝えてこなかった恥ずかしさと、被爆体験を受け継ごうとする娘の頼もしさを感じた」と石田さんを見つめた。

 繁人さんも、爆心地から約800メートルの長崎工業学校で級友らを奪われたことを明かし、「亡くなった先生や友人、焼け野原で見た光景がよみがえって胸が苦しくなり、話せなかった」と声を詰まらせた。

 75年たっても原爆の記憶に苦しむ両親を前に、石田さんは体験を聞いておかなければという思いを強くした。「2人の苦しみを一番理解できるのは、長年共に歩んできた家族」と確信するからだ。

 「被爆者の思いを、その濃さのまま伝えることが被爆2世の役割。いつか、『私の両親は』という形で、2人の体験を語れるようになりたい」

世間の目 苦しみに耐え

原爆が投下された直後に見た雲を描き、色や形を説明する坂本郷子さん(7月13日、名古屋市で)
原爆が投下された直後に見た雲を描き、色や形を説明する坂本郷子さん(7月13日、名古屋市で)

 「まるで伝染病を持っているようで。口には出せませんでした」。名古屋市の坂本郷子さん(81)も75年間、長崎での被爆体験を家族にさえ詳しくは語ってこなかった。

 6歳の時、爆心地から約4キロにあった自宅そばの民家で、母親と5歳上の兄と被爆した。玄関でわら草履を編んでいたその家のおじいさんは熱線で背中を焼かれ、数日後に亡くなった。

 母も兄も無傷だったが、4年後、母は腹がぷっくりとふくれて死んだ。原爆症と言われた。それからは、年の離れた別の兄たちの家をたらい回しにされ、肩身の狭い思いをした。

 苦しみは続いた。23歳の時、結婚を決めた夫と関西の実家にあいさつに行くと、義姉が「体の不自由な子どもが生まれる」と泣きながら猛反対した。結婚後、義姉は親切にしてくれたが、被爆者に向けられる世間の目が怖くなった。

 名古屋に移り住んでからは、被爆者であることを隠してきた。それなのに、年頃になった長女は交際相手の母親から「あなたのお母さんは被爆者でしょ」と言われた。義姉の言葉がよみがえり、子どもに申し訳ないと思った。

 心境に変化が生じたのはここ数年のこと。自分と同じような苦しみを抱えた被爆者が減り続ける中、「黙っていては原爆が昔話にされる」と感じた。今年から地元の被爆者団体で手伝いを始め、9月には名古屋市内で営まれる犠牲者の慰霊式に初めて参列するつもりだ。「子や孫にも、いずれ体験を伝えたい」。今はそう考えている。

無断転載・複製を禁じます
1386141 0 トピックス 2020/08/01 05:00:00 2020/08/04 09:58:30 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200803-OYT8I50103-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
500円400円
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ