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女性受刑者の摂食障害…対話の治療[女性刑務所6] 

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 病院機能を持つ刑務所の一つ、「東日本成人矯正医療センター」(東京都昭島市)には、摂食障害の女性受刑者専用の病棟がある。窃盗などの罪を犯し、体重が減りすぎたなどで一般の刑務所で生活することが難しくなった女性たちが、専門の治療を受けながら受刑生活を送っている。(編集委員・猪熊律子)

集団で個別で…専門病棟が対応

 専用病棟に入ってまず気づくのは、一般の刑務所と違って全室が個室であることだ。廊下を挟み、30前後の部屋が左右に並んでいる。

部屋の入り口に貼られた「水制限」の札。食べ物の隠匿や自殺・自傷行為の防止のため、部屋から物を引き揚げる「物品制限」の札もある
部屋の入り口に貼られた「水制限」の札。食べ物の隠匿や自殺・自傷行為の防止のため、部屋から物を引き揚げる「物品制限」の札もある

 部屋の入り口の所々に「水制限」という札があった。摂食障害により食べ物を吐いたり捨てたりする頻度が高い受刑者には、そうできないよう、部屋の洗面所やトイレの水を自分で流せないようにしてある。そうすることで(おう)()せずに済む訓練を重ねるという。

 「別室食事」という札もあった。一人で食事をすると食べ物を隠したり吐いたりしがちなため、食堂でみんなで食事をし、食後30分間はその場で(めい)(そう)して過ごす。消化のための工夫だ。

 同センターの担当者によると、運び込まれた時、「治療の必要はない」と敵意むき出しで暴れる人が少なくない。やむを得ず「多機能病室」と呼ばれる監視カメラ付きの特別室に入れることもある。入っている期間は人により異なるが、栄養や飲み物が体に入ると徐々に落ち着きを取り戻し、「人間らしい会話が成り立つようになる」そうだ。

 治療には、ヨガやコミュニケーション力を磨く作業療法や、読書療法、受刑者同士が話し合う集団療法などがある。

 「摂食障害の人は裕福な家庭に育ち、成績がよく、高学歴が多い反面、対人関係を築くのが苦手で、気持ちのコントロールができない傾向がある。家庭内虐待の体験を持つ人も多い。親の期待に応えようと必死になり、子供らしい生活を送れなかった人が目立つ」と同センターの精神科医が話す。

刑務官…悩みと負担

笑った顔、悲しい顔など、様々な顔の表情が印刷された紙を見ながら今の自分の気持ちを書き、人に伝える練習をする
笑った顔、悲しい顔など、様々な顔の表情が印刷された紙を見ながら今の自分の気持ちを書き、人に伝える練習をする

 受刑者5人が参加した集団療法に同席した。受刑者が互いの目を見て自由に話せる機会は、一般の刑務所ではごく限られる。また、自分と同じような境遇の人と出会えるため、月1回、1時間半のその時間を楽しみにしている受刑者が多いと聞いた。

 そこでのある受刑者の発言。

 「摂食障害と診断され、それを受け入れられない期間が20年ほど続いた。ここに来て、食べ物を吐かないことが次第に楽になった。そう気づいた時、初めていろんなことを受け入れられる気持ちになった。ただ、食べることは克服できても太って体形が変化していくことまで100%受け入れられているわけではない。その葛藤がすごい」

 別の受刑者の発言。

 「小学生の時に親が離婚し、父親と暮らすことになった。すぐ新しい母親が来た。妹が生まれると妹ばかりが愛され、母親が作ったものを食べたくなくなった。ある時、吐くという方法があるのを知り、以来、吐くのが日常化して、手に吐きダコができた。それを人に見られるのが恥ずかしくて、手を使わずに吐く練習をした。自分の病気には幼少期や親の影響が大きい」

 全員が感想を述べ合う場面では、「こんな経験を持つのは自分一人だけじゃないと知り、安心した」「もっとみんなの話を聞きたい」との声が目立った。

ヨガの呼吸法を学ぶ受刑者。不安になると衝動的に過食や万引きをしたくなる。その気分を抑える効果があるとされる(画像は一部修整しています)
ヨガの呼吸法を学ぶ受刑者。不安になると衝動的に過食や万引きをしたくなる。その気分を抑える効果があるとされる(画像は一部修整しています)

 個別の診療現場にも同席した。患者の受刑者は30代。父親が家庭で絶対的な権威を持ち、何か話すと「おまえは駄目な人間だ」と言われる子供時代を送った。母親に依存し、いつまでも守られていたいと、成熟した大人の女性になるのを恐れ、拒食で生理が来なくなると安心した。10代後半から過食嘔吐が始まり、引きこもりの状態が長く続いた。

 驚いたのは、医師とのやり取りで出た次の言葉だ。

 「こんなこと言ったらあれやけど、家よりここにいる方が気持ちが楽。刑務所に入って人間関係が広がった」

 また、「父親との関係はすごく厳しかったけど、そういうことを言っちゃ駄目だと思っていた。でも、『いろんな気持ちを持っていい』と先生が言ってくれて、すごく安心した」との言葉もあった。

栄養状態が極度に悪い場合、鼻から栄養を管で送る経管栄養も実施される(画像は一部修正しています)
栄養状態が極度に悪い場合、鼻から栄養を管で送る経管栄養も実施される(画像は一部修正しています)

 摂食障害の受刑者を抱える刑務所職員の悩みは深い。物を吐く、消費カロリーを増やすために勝手に運動するなど、多くの行動が違反行為となるうえ、懲罰と治療のどちらを優先するかを迫られることが多いためだ。また、刑務所の中では拒食や過食嘔吐をやめさせることができても、社会に出ると再発し、何度も戻ってくる受刑者が多い。そのことも職員のストレスや心身の負担になっている。

 「懲罰に効果があるかは疑問。彼女たちからすると、懲罰よりも太ることの方が怖いのだから」「彼女たちにとって、罪を犯して刑務所に来ることは全く抑止力になっていない。それ以上に怖いことが社会にはあるのだと思う」――。現場をよく知る刑務官の言葉が印象的だ。

(写真はいずれも2020年11月、東京都昭島市の東日本成人矯正医療センターで=池谷美帆撮影)

(2021年3月25日読売新聞夕刊<東京本社版>掲載)

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2051626 0 トピックス 2021/05/16 08:06:00 2021/05/16 08:06:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210401-OYT8I50064-T.jpg?type=thumbnail

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