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女性受刑者 クスリとの闘い…刑務所の現場から[女性刑務所・番外編]

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 女性の犯罪で、窃盗と並んで多いのが覚醒剤取締法違反だ。女性受刑者全体の3割を占め、この割合は男性より10ポイントほど高い。女性たちはなぜクスリに走るのか。栃木や札幌にある女性刑務所を取材したところ、彼女たちが抱える「生きづらさ」や、刑罰と治療に悩む刑務所職員らの姿が浮かび上がってきた。(編集委員・猪熊律子、写真=池谷美帆撮影)

40代 4度目の入所/30代 孤独で手放せず…栃木

「離脱指導」

薬物依存離脱指導に参加し、目を閉じて足踏みする受刑者ら(2020年11月、栃木市の「栃木刑務所」で。画像は一部修整しています)
薬物依存離脱指導に参加し、目を閉じて足踏みする受刑者ら(2020年11月、栃木市の「栃木刑務所」で。画像は一部修整しています)

 ホワイトボードに船といかりの絵を描いた教育専門官が、教室内の受刑者に呼びかけた。「目を閉じて。用意……スタート」。ピンク色の作業服姿の女性たちが一斉に足踏みを始めた。

 1分ほどして目を開けると、元いた場所からずれていたり、横を向いていたり。「自分では同じ場所にいるつもりなのに」と受刑者が口々に戸惑いの声を上げる。

 「船を安全な場所にとどめておくには錨が必要。でも、1本の細い綱だけでは波や風で流されかねない。大事なのは何本かの綱を持ち、断薬した安全な側にとどまり続けること」と専門官が力を込めた。

 ここは全国に11ある女性刑務所の中で最も古く、入所者も最も多い栃木刑務所(栃木県栃木市)。女性たちが受けていたのは、全国の刑務所で実施されている「薬物依存離脱指導」だ。

 女性受刑者全体で見ると罪名で最も多いのは窃盗(47.4%)で、次が覚醒剤(33%)だが、覚醒剤の運び屋として捕まった外国人も多く受け入れている栃木では、覚醒剤が4割と最多を占める。

 入所者約500人の平均年齢は50歳。最高齢は87歳。窃盗が目立つ50代以上に比べ、40代以下では覚醒剤が多い。

再犯リスク

「家族関係が壊れ、孤独になっていった」と話す女性受刑者
「家族関係が壊れ、孤独になっていった」と話す女性受刑者

 覚醒剤は他の犯罪に比べて、再犯リスクが高いことで知られる。特に女性の場合、再犯者の9割以上が前刑も覚醒剤(男性は8割弱)で、入所と出所を繰り返しているとの調査結果がある。

 なぜ覚醒剤なのか。なぜ何度も繰り返すのか。

 「家庭環境が不遇で悪い友人がいたなど、成育環境や地域性の問題が大きい。SNSで簡単に手に入り、ダイエットから関心を持つ人も多い。1回使って大丈夫と過信し、2回目から崩れる人が目立つ」と調査専門官。良き母親や妻の役割を期待され、「もう頑張れない」とクスリに走る人もいるという。

 4度目の入所という40代の受刑者が、覚醒剤を最初に使ったのは16歳の時。家出して、知り合った売人に勧められ、興味本位で1回使った。

 次は20代の時。結婚していたが、居酒屋で知り合った男性に誘われて、その男性との関係とともにどっぷりはまった。注射してもらう間隔が月1度から週1度になり、体が毎日欲しがるようになった。子育てや仕事に追われる中、夫や恋人とケンカするたびに「クスリで怒りが抑制され、一瞬でもスカッとする快楽にやめられなくなった」。ただ、「自分ではいつでもやめられると思っていた」と語る。

 30代の受刑者は、友人の勧めで19歳の時に初めて使った。その後、飲食店などで働く中、仕事に疲れ、働けない自分を責めるうちに手放せなくなった。ばれないように家族や他人を避け続けた結果、孤独になり、それが使用に拍車をかけた。「逃げ癖がついた自分はこれからどう生きればよいのか。自分をはき出せ、ありのままでいられる場所がほしい」と話す。

懲罰か教育か

 刑務所には、刑罰を科しながら、依存症の患者でもある受刑者を更生・社会復帰させる役割もある。

 「覚醒剤使用者はクスリが抜ければ普通の人という場合も多い。ただ、精神的に弱く、悪い仲間に引きずられて依存を断てない。彼女らに必要なのは懲罰より専門的な治療や教育」。職員の間からはそうした声が聞かれる一方、「『傷つくのは自分で誰にも迷惑をかけていない。何が悪い』と居直る受刑者も多い。犯罪の自覚を促すためにもやはり刑罰は必要」との声もある。

 西村美穂・首席矯正処遇官は「クスリや男性に依存せずに自立できる力をいかに身につけられるか。叱咤しった激励しながら支え続ける存在が必要で、刑務所だけでは解決しない社会的な課題だ」と指摘する。

依存脱却にイチゴ栽培 出所後にらみ自主性育む…札幌支所

ビニールハウスの中で、イチゴの苗の管理をする受刑者たち(2020年11月、札幌市の「札幌刑務支所」で)
ビニールハウスの中で、イチゴの苗の管理をする受刑者たち(2020年11月、札幌市の「札幌刑務支所」で)

 再犯防止に向け、「依存からの回復」と「出所後支援」に重点を置いた新たな取り組みが始まっている。札幌刑務支所(札幌市)内に、昨春開設された「女子依存症回復支援センター」がそれだ。

 「出所後に近い環境で自主性や協調性を育む」(三浦英輝・支所次長)との狙いから、部屋の作りは普通の刑務所とはまるで異なる。フローリングの床に木製の家具やベッドが置かれ、30ある個室の広さは通常の1.5倍ほど。鍵はなく、共用のトイレや洗面所に自由に行ける。共同浴室に至っては、木目調の壁に柔らかな明かりがともり、まるでスパにでもいるかのようだ。

 「最初は処遇の良さに驚き、喜んだ受刑者も、毎日受けるプログラムで自分の過去と向き合い、課題について考えなければならないと知り、これは大変だと思うようだ」。谷之口国江・統括矯正処遇官がそう明かす。

 プログラムは民間団体に委託して、女性向けに開発した。依存のメカニズムのほか、男女の体の構造の違い、社会における性別役割分担などを学ぶ。表現力を養うための読書クラブや、クスリに頼らない体を作る実技もある。

 取材した日には「出所後、コロナにどう対応するか」「病気になった時、医師に覚醒剤の使用歴をどう告げるか」などが話し合われていた。

 刑務作業は、心の安定に効果があるとされる農作業(イチゴ栽培)をしている。

 やせるために覚醒剤を使ったと話す4人の子供がいる50代の受刑者は「収穫期になるとビニールハウスが甘い匂いに包まれて物を育てる喜びを感じる」と言う。入所3度目、風俗店を経営していたという40代の女性は「指示通りに作業する普通の刑務所と違い、ここは頭を使うのでしんどいが、人として扱われている気がする。出所したら自助グループに入り、家族との関係も取り戻したい」と意欲を見せる。

 センターの取り組みは2023年度までの法務省のモデル事業で、効果が確認されれば全国での展開を検討する。

 谷之口統括矯正処遇官は「犯罪者にここまでする必要があるのかとの議論もあるが、再犯率を下げるのが最大の目的。クスリをやめ、回復の先に納税者として生きる道があることを刑務所としても発信していきたい」と話す。

覚醒剤使用 DV背景に…「経験」7割、犯罪白書

 薬物を特集した2020年版犯罪白書によると、覚醒剤の使用歴がある女性受刑者の7割が配偶者らから身体的な暴力(DV)を受けた経験があり、男性に比べ、虐待など小児期のつらい体験を持つ人の割合が高いこともわかった。

 調査は法務省法務総合研究所が国立精神・神経医療研究センターと17年に実施した。薬物の使用歴がある受刑者約700人から回答を得た。

 覚醒剤を使いたくなった場面は「クスリ仲間と会った時」が男女とも最多で、男性は60.6%、女性は53.2%。男性は「セックスをする時」「手元にお金がある時」が女性に比べて顕著に高かったのに対し、女性の場合は「誰かとケンカした後」「体形が気になる時」だった。自傷行為も女性の経験率の方が高かった。白書は「女性は治療を受けるニーズが高い人が多いが、介入は多角的かつ慎重に行う必要性が高い」と指摘している。

「やり直せる社会」

 「時間の無駄」。何人かの受刑者からこの言葉を聞いた。覚醒剤の使用と、それにより入所した時間は「無駄」であり、人間関係を壊したことを悔やむ声も多かった。10代でもクスリが簡単に手に入る社会環境がある中で、厳しい成育環境などから覚醒剤に手を出した人が心の底から「やり直したい」と思った時、受け入れられる社会を築けるかどうかが問われている。

(2021年1月7日読売新聞朝刊掲載)

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2051818 0 トピックス 2021/05/16 08:09:00 2021/05/16 08:09:00 **二次使用時は刑務支所のチェックが必要** イチゴのビニールハウスで農作業をする女子依存症回復支援センターの受刑者(11月12日、札幌市東区の「札幌刑務支所」で)=池谷美帆撮影☆※※外販禁止素材※※☆※※外販禁止素材※※ https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210511-OYT8I50095-T.jpg?type=thumbnail

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