新型コロナのことばたち

コロナ時代の言葉たち

コロナ時代の言葉たち
コロナ禍では、数々の印象に残る言葉が登場した。
「3密」をはじめとする造語、「パンデミック」「クラスター」といったカタカナ語、「社会的距離」などの専門用語と、多様だ。
これまでの「コロナの言葉」を振り返るとともに、日本語の変化などについて識者に聞いた。

(流れている言葉でマウスを合わせて赤くなったものは、クリックすれば説明が現れます)

瀬戸際・持ちこたえている・正念場
 2月、専門家会議は「1~2週間が急速な拡大か収束できるかの瀬戸際」との見解を示した。緊急事態宣言発令前、政府は「ぎりぎり持ちこたえている」と説明。テレビなどでは、「今の行動が、1~2週間後の数字に表れる」という言い回しも多かった。宣言後も「瀬戸際」「今が正念場」が繰り返された。「瀬戸際」は海峡と外海の境、「正念場」は歌舞伎などの重要な見せ場の意味。

新しい生活様式
 広辞苑は、「生活様式」を「生物の生活の仕方。生息場所や行動、栄養の摂取法、繁殖の仕方……」などと説明している。社会学や人類学などで、学術用語として使われることも多い。厚生労働省などは、マスクや手洗い、食事の仕方といった身近な実践例を数多く挙げている。「専門的な硬い言葉」といった従来の語感とは隔たりも。

3密
 「密閉」(換気が悪い場所)、「密集」(多数が集まる場所)、「密接」(間近で会話や発声をする場面)を指す。「三つの密」とも。3条件がそろうと集団感染の危険が高まるとされた。東京都の小池百合子知事が、コメントを求めに集まった報道陣に対し「密です」と連呼し、話題になった。

社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)
 Social Distance。もともと個人や集団の間の親密さの程度を指す社会学用語。小さいほど好意的であることを示す。感染症対策で人との接触を減らす取り組みは「ソーシャル・ディスタンシング」と呼ばれてきた。WHOなどは「フィジカル・ディスタンス(身体的距離)」と言い換えている。日本では、「ソーシャル・ディスタンス」が定着しつつある。

不要不急の外出自粛
 2月の専門家会議の初会合、緊急事態宣言時、ゴールデンウィークなど、折々に呼びかけられた。具体的に何を指すのか戸惑いも広がり、小池東京都知事らは「生活必需品の買い物」「通院」などは該当しないと説明した。イベントなどは軒並み中止に。「不要不急」とされた文化や芸能などの意義について考察する動きも広がった。

PCR
 Polymerase Chain Reaction。ポリメラーゼ連鎖反応。遺伝子の断片を繰り返し増やし、微量の遺伝子を検出する。警察によるDNA型鑑定などにも利用。

クラスター
 cluster。人や物の集まり。感染者の集団を指す。メディアで多用され耳になじんだ。花や実の房の意味も。

パンデミック
 pandemic。感染症の世界的大流行。ギリシャ語のpan(すべて)・demos(人々)から。

コロナ(COVID-19)
 コロナは王冠の意。ウイルスの形状から。COVID-19、WHOが命名した新型コロナウイルス感染症の正式名。Coronavirus Diseaseと、感染が報告された2019年から。コロナ禍の「禍」は災い。

オーバーシュート
 overshoot。目標を射はずすなどの意味。爆発的な患者増を指す。

専門家会議
 政府が設けた感染症専門家らの会議。7月に廃止され、新しい分科会が発足した。

ロックダウン
 lockdown。戸や窓などが、カギで閉まること。感染拡大防止のための都市封鎖を意味する。

緊急事態宣言
 新型コロナ対策の特別措置法に基づいて発令。

出口戦略
 戦場からの撤退や、臨時の金融政策を戻す方法などに用いられてきた。感染防止に努めながら休業要請などを解除する方策を指す。

テレワーク
 tele(離れた)とwork(労働)を組み合わせた造語。インターネットを活用し、自宅や、勤務先以外の仕事場で働く。

8割削減
 緊急事態宣言発令に合わせ、安倍首相は「人と人との接触を最低7割、極力8割」削減することを訴えた。北海道大学の西浦博教授の試算が根拠。西浦教授は「8割おじさん」とも呼ばれた。

ステイホーム
 stay home。小池知事が「ステイホーム、家にいてください」と呼びかけた。ゴールデンウィークは「ステイホーム週間」。

あつ森
 外出自粛で人気となったゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の略称。

自粛警察
 外出する人や営業を続ける店を過度にとがめる現象。営業時間などのルールを守っているにもかかわらず、悪質な嫌がらせを受けるケースも。

ハンマー&ダンス
 The Hummer and The Dance。急激な感染拡大に対して、ハンマーでたたくような強力な対策を取ったあと、様々な備えで、ウイルスとダンスを踊るような共存を図ること。

9月入学
 休校が長引いたことから、海外で一般的な9月入学が議論された。早期導入は見送りに。

東京由来
 東京に滞在したことなどが原因の感染。感染経路が特定されていない時点での発言には批判も。

WHO
 World Health Organization。世界保健機関。

濃厚接触
 国立感染症研究所の現在の定義は、患者の発症2日前から隔離開始までの間、1メートル程度までの距離で、マスクなど必要な予防策を取らずに15分以上接触した場合など。

アビガン
 治療薬として期待。

エクモ
 ECMO。体外式膜型人工肺。重い肺炎の治療に使う。

飛沫(ひまつ)感染
 せきや会話で、飛沫が口や目などに付着して起きる感染。

接触感染
 患者や、ウイルスが付着した物に触れることで起きる感染。

夜の街
 「接待を伴う飲食店」で感染者が増えた。独特な語感。

Go To トラベル
 旅行代金を補助。東京を目的とする旅などは当面除外。

武漢
 世界で最初に感染が拡大した中国・湖北省の都市。

クルーズ船
 船旅(cruise)用の旅客船。「ダイヤモンド・プリンセス号」で大勢が感染。

スペイン風邪
 1918年から世界中で流行したインフルエンザの俗称。

Zoom・Skype
 ビデオ会議システム。飲み会にも活用。

アマビエ・アマビコ
 疫病の流行を封じるとされる妖怪。

大阪モデル
 大阪府独自の自粛要請・解除の基準。通天閣、太陽の塔をライトアップ。

収束/終息
 収束は状態が収まること、終息は完全に終わること。

置き配
 荷物を玄関先や宅配ボックスなどに置く宅配方法。

東京アラート
 東京独自の警報。都庁、レインボーブリッジをライトアップ。

エピセンター
 感染の震源地。

ワーケーション
 休暇先で仕事をすること。「ワーク」と「バケーション」からの造語。

特別な夏
 小池知事が、お盆の時期の旅行や帰省の自粛などを求めた。

感染経路不明
 「リンクが追えない」とも。

エッセンシャルワーカー
 必要不可欠な(essential)働き手。医療、エネルギー、食品などに関わる人。

ニューノーマル
 new normal。新常態。2008年のリーマン・ショックで、世界経済は新しい状況になったという意味で広く使われるようになった。

買い占め
 トイレットペーパー、マスク、さらにうがい薬で問題に。

転売ヤー
 転売屋とバイヤーからの造語。マスクの転売で問題に。

無観客
 観客を入れることは「有観客」とも。

 医療崩壊

 院内感染

抗原検査・抗体検査

 再生産数

臨時休校・一斉休校・分散登校

オンライン授業

ウェブ面接

  第2波

接触確認アプリ

 行動変容

県をまたぐ移動

 休業要請

ウィズコロナ

手洗い・手指消毒

チャーター便

手作りマスク

アベノマスク

 屋形船

ライブハウス

 巣ごもり

10万円給付

ドライブスルー

  緩み

コロナ太り

フェースシールド

Uber Eats

 昼カラオケ

リモートマッチ

 アクリル板

文章語 日常会話で多用


国語辞典編纂(へんさん)者
飯間浩明氏

■新たな
 今年の「新語・流行語大賞」は、コロナ関連が席巻するのは必至だ。私が選考委員を務める三省堂の「今年の新語」もそうなるだろう。
 注目しているのは、もともと存在する言葉が、独特の使われ方をするケースだ。
 例えば「密」。人や物が集まっている状態を「密になっているね」などと言うことが増えた。「密」という語は昔からあり、三省堂国語辞典では「ぎっしりつまっていること」と説明している。ただし、文章語という注記がある。それがこの数か月間で、日常的に口にする言葉へと、新たな意味合いを帯びるようになった。
 「生活様式」も、論文に出てきそうな硬い語感がある。一般的には「ライフスタイル」だろうが、これは「シンプルなライフスタイル」「自由なライフスタイル」といった主義主張や好みを意味に含む。「新しい生活様式」はそれとも違い、生活習慣や生活の仕方だ。硬い言葉が日常語に躍り出た。
 ほかにも、「テレワーク」「テイクアウト」「不要不急」といった、比較的限られた場面で使われていた言葉の使用頻度が一気に増えた。面白いのは「アベノマスク」。コロナ関連で、自然発生的に使われ出した言葉は少ない。当初は揶揄(やゆ)のニュアンスが強かったが、次第に単にマスクの種類を指すことも多くなった。

■カタナ語の音
 カタカナ語への批判もあったが、漢字にはない長所もある。耳で聞いて印象に残りやすい点だ。
 「オーバーシュート」が「(爆発的)患者急増」だと発音に特徴が出ない。漢字は同音異義語が多く、音が似てしまう。熟語に使われる漢字は一般に、1音か2音。2音目はイ・ウ・キ・ク・チ・ツ・ンに限られるため、音のバリエーションが少ない。
 患者急増に対してオーバーシュートの「バー」は特徴的だ。パンデミックの「パ」、「フェースシールド」の「フェ」など、漢字にはない音が多い。元の外国語の意味を知る必要があるが、一概にカタカナ語が良くないというわけではない。
 「ソーシャル・ディスタンス」のように、専門的な意味と、一般で使う意味が違うこともある。疑問だという声もあるが、広がった言葉はそうそう変えない方がいい。

会を映す
 コロナ禍が日本語に与える影響はまだ分からないが、社会が変われば言葉も変わる。東日本大震災後には、辞書の項目に地中の塩分を除く「除塩」を加えた。シーベルト、ベクレル、アルファ線、ベータ線など、放射線関係の語も詳しくした。
 感染症を意識する生活が続くと、「ちょっと密だね」という話し言葉が定着するかもしれない。これは日常の日本語が変わること。使用頻度が増えた言葉が、一般化する可能性もある。今後も言葉の観察を続けたい。
 
◇いいま・ひろあき
 1967年生まれ。三省堂国語辞典編集委員。「辞書を編む」(光文社新書)、「ことばハンター」(ポプラ社)など著書多数。