「全部自由。でも、相づちがない」

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作家 眉村卓さん 83

「近ごろはね、娘が守護神なんです」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)
「近ごろはね、娘が守護神なんです」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)

 家内が2002年の5月に亡くなったとき、自分ももう死んじゃったっていいやと思ってました。励みになるものがなくなって、先のことが全く見えなかった。仕事も受ける気がなかったんですけど、今まで書いてたのがなくなって、やめてしまったらスカみたいでしょ。月に1回帰ってくる娘にも尻たたかれて、そうするうちに、書くようになりました。書くことしかないですから。

 私の場合は、家内のがんがわかってから亡くなるまでに5年ありました。ご飯を作るのはだめだけど、買ってくるのは慣れてきて、洗濯もするようになって、訓練する時間がありました。服も、変なものを買ってきたら家内に文句を言われていたのが、言われなくなったので、60点ぐらいにはなったかな、と。80点ぐらいにしたいんですけど、娘に「ウーン」と言われたときは「だめか」と。高いものをひとりで買うのも、最初は怖いんですけど、だんだんイケイケになってきますね。

 でも、聞いていなかったこともあって、いまだにモーニングが一つ、どこにいったかわからない。

「口をあけてしゃべる機会をつくる」

「家内を見習って、病気でも能天気でいきたいですね」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)
「家内を見習って、病気でも能天気でいきたいですね」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)

 全部自由です。散髪へ行くのも。食事は外食か、買って帰るか。好きなものを好きなときに食べられるのはありがたいもんです。家内がおったときは「また晩飯これか」というときもありましたから。

 困るのは、ばかばかしい話ですけど、背中がかゆいときに手当てをしてくれる人がない。娘が帰ってきたときに、こう薬をはってもらいます。

 それから、何も用事はないけど「きょう暑いな」とか「なんでこんなに忙しいんやろ」とか言ったときに「そうやね」と相づちを打つ人がいない。そういうとき答えてくれるロボットがおったらいいなと思います。家内の声やったらちょっとせつないから、別の声で。

 ひとりになったら、口をあけてしゃべる機会をたくさんつくるほうがいいと思います。努めて外に出て人と話をする。おかずなんかを買うのも、コンビニよりお総菜屋さんで買う方が声出すからいいように思いますね。

「電車に揺られて」

 子供のころから電車に乗るのが好きで、奈良へ行ったり、和歌山へ行って帰ったりしています。筆記用具を持ち歩いていて、電車に揺られながら、何か思いついたらメモをする。

 書くものは昔とは変わりました。私小説みたいに自分のことなんかも入って、老人のうらみつらみも交じって、自分で「モーロク小説」と言ってるんですけど。

 6年前、私自身に食道がんが見つかりました。もともと家内より持病は多かった。いよいよ来たかと思いましたが、手術を受けて無事退院できました。おととし2回目の手術を受けて、先月また、再発が見つかりました。

「あと1冊」

「なるべく外に出たほうがいいと思います」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)
「なるべく外に出たほうがいいと思います」(大阪市阿倍野区で、枡田直也撮影)

 「そのうちそっちに行くよ」と女房に言ってたのを、毎日のばしている感じです。あと1冊書きたいと思っています。ずるずる生きてるんやったら、有益に使おうと。何もせんのは無駄やから、書いた方が得、という程度のことですけど。

 病気をして、71キロあった体重が50キロほどになりました。人生は長い坂を上るがごとし、と言いますけど、人間はぎりぎりまで長い坂を下るがごとしでね。勾配はときどき変わるけど。

 書いて、食べて。転倒と誤嚥(ごえん)には気をつけて。家内は自分自身を「能天気」と言っていました。私も女房に学んで、病気になっても能天気でいこうと思っています。

【プロフィル】
 まゆむら・たく。1934年大阪生まれ。代表作「司政官」シリーズの「消滅の光輪」で79年、泉鏡花文学賞。ジュブナイル小説「ねらわれた学園」は何度も映像化された。本紙「人生案内」の回答者を務める。
15816 0 トピックス 2018/04/08 09:56:00 2018/04/08 09:56:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180405-OYT8I50031-T.jpg?type=thumbnail

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