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    社会

    居酒屋に、釣り堀に…「イカす」銭湯建築

     全国的に廃業が続く銭湯。人通りの多い街中で客を迎え、湯船や壁に描かれた味のある絵で楽しませ、日本の庶民文化に根ざしてきた。最近、異業種の企業がこうした建物の良さを生かし、各地で居酒屋やカフェ、釣り堀などに改装し、人気を集めている。魅力的に再生された銭湯建築を紹介する。(久保哲也)

    ■湯船が座席に…遊び心の空間

    • 「現代の名工」の中島盛夫さんが描いた富士山=「分福」(東京・港区)で
      「現代の名工」の中島盛夫さんが描いた富士山=「分福」(東京・港区)で
    • 魚の刺し身は手桶入りで登場
      魚の刺し身は手桶入りで登場
    • 湯船跡にテーブルといすを置いて客席に。銭湯気分を楽しめる
      湯船跡にテーブルといすを置いて客席に。銭湯気分を楽しめる

     JR田町駅に近い、東京都港区芝の慶応仲通り商店街。夕暮れが迫ると、居酒屋「分福」ののれんをくぐる人の姿が相次ぐ。2016年5月まで「萬歳(ばんざい)湯」だった建物だ。古い建物を飲食店やシェアハウスなどとして再生する「大関商品研究所」(東京都港区)が半年近くかけて改装、子会社の「食匠(しょくたく)厨房(ちゅうぼう)」が運営している。

     中は広く150席。売りは、1969年建設の銭湯設備を生かした遊び心いっぱいの内装だ。細い通路を抜けると、元銭湯らしい天井の高い空間へ。奥にはタイル張りの湯船のスペースの中にテーブルといすを置き、客席にした。

     座席は柔らかく、掘りごたつのように足を伸ばせる。確かに湯船につかったような安心感だ。洗い場の丸い鏡なども往時の雰囲気を演出する。

     改装の際、2階席を設けた。「銭湯の天井は高く、空間を遊ばせておくのはもったいない。絵の高さの目線で富士山を楽しんでいただきたい」。早速(はやみ)一平店長(33)イチ押しの富士山の絵は、階段で2階に上ると真正面から鑑賞できる。たおやかな稜線(りょうせん)は銭湯絵師で国が選んだ「現代の名工」中島盛夫さん(73)の作だ。

     魚の刺し身5点盛りを注文すると、手(おけ)をイメージした容器で運ばれてきた。コーヒー牛乳やカクテルも瓶に入れて提供。風呂上がりに腰に手を当ててゴクゴク飲んだ、瓶の牛乳からの着想だ。

    ■「銭湯回帰のきっかけに」

    • 高橋元彰さん
      高橋元彰さん

     このような再生活動は銭湯経営者にどう映るのか。

     改装前の萬歳湯を経営していた高橋元彰さん(80)は「浴槽をはじめ面影を残してくれた手法は見事。私も、文化と銭湯を残せたか、と、ほっとしている」と安堵(あんど)の様子だ。社団法人「日本銭湯文化協会」会長を務める高橋さんは、異業種による銭湯建築再生を歓迎する。「銭湯(の雰囲気)に触れる機会ができる。実際、銭湯に行ったことのない人が湯船の客席に座った後、『自宅近くの銭湯にも行ってみます』と言ってくれた。今後、地域社会の新たな中心になれば」と期待を寄せる。街中で今も営業中の銭湯についても「異業種の力を借りることは(営業改善に)有効だろう」との見方だ。

    ■全天候型釣り堀

    • 中に入ると生け簀が出迎える=「旗の台つりぼり店」(東京・品川区)で
      中に入ると生け簀が出迎える=「旗の台つりぼり店」(東京・品川区)で
    • 立派な構えの玄関=「旗の台つりぼり店」(東京・品川区)で
      立派な構えの玄関=「旗の台つりぼり店」(東京・品川区)で

     東京都品川区の「旗の台つりぼり店」は、廃業した「()の花温泉」を2015年に改装して、別の場所から移転してきた。銭湯の洗い場跡が釣り堀になっている。店長の柳田久光さん(46)は工務店社長でもあり、銭湯内に中2階を設けて工務店事務所を置き、釣り堀と同居させている。まさに柳田さんの「二刀流」を実現した空間だ。

     生け()ではコイが泳ぐ。「水に関する設備をそのまま使えるので、改装の費用を抑えられる」。給排水設備がある広い空間は釣り堀向きだという。何より「雨降り心配なしの全天候型」なのがいい。

     二つの生け簀のうちの一つは最近新設。車いすの利用者らも釣りを楽しめるよう、水深を浅くした。

     地域に愛される施設として、「客がゆったり話ができるように食事スペースも設ける。やがては落語会も」。天井の高さ約9メートル、床面積約230平方メートルの広いスペースに身を置くと、構想はさらに膨らむ。

     鉱泉を使った銭湯として知られる荏の花温泉は1925年開業。現在の建物は61年完成した。「肌がすべすべになる」などと住民に愛されたが、人手不足もあり、2004年正式廃業。所有者の田村徳治郎さん(77)は「父が残した建物をどのように使うか悩んでいたが、柳田さんは『建物の構造を変えない』と申し出てくれた。私が生まれ育った土地なので、釣り堀がにぎわいの場になれば」と話している。

    ■異国情緒のタイル 京の人気カフェ

    • 花の模様で異国情緒を伝える壁や照明(さらさ西陣提供)
      花の模様で異国情緒を伝える壁や照明(さらさ西陣提供)
    • 浴室跡(手前)と脱衣所跡(奥)を改造したカフェ(さらさ西陣提供)
      浴室跡(手前)と脱衣所跡(奥)を改造したカフェ(さらさ西陣提供)

     京都市北区のカフェ「さらさ西陣」は1930年に開業し、99年に廃業した木造2階の「藤ノ森湯」を再生。同市中京区の飲食店経営会社「サラサ」が借りて2000年にオープンした。建物にはほとんど手を加えず、03年に国の登録有形文化財になった。

     玄関は曲線が映える唐破風(からはふ)。店内に入ると、浴室や洗面台だった壁一面はタイル張りだ。かわいらしい花柄のレリーフが施されている「マジョリカタイル」だ。地中海が起源といい、大正から昭和初期に流行した。その美しさに心動かされた人が次々とネットに書き込み、それを読んだ人が遠方から足を運ぶ。1日あたり約100人の客が訪れる。

     音がよく反響するため、ライブ会場にも。映画や雑誌の撮影場所としても使われる。2階は貸しギャラリーで、作品などを展示・販売できる。

     尾崎友哉店長(42)は「銭湯時代と同じくらい多様な人が気軽に寄ることができる場所であり続けたい」と話している。

    ■銭湯 2日で1軒消える

    • 「一般公衆浴場」の数=グラフ
      「一般公衆浴場」の数=グラフ

     厚生労働省のまとめでは、銭湯を含む「一般公衆浴場」は2015年度、2日で1軒減った計算だ。同省は、減少する主な理由として、(1)家に風呂がある世帯が増えたことで客の減少や経営悪化(2)経営者の高齢化、後継者不足(3)立地の良さを生かした事業転換――などを挙げている。

    2018年05月09日 10時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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