文字サイズ
    ちょっと気になるニュース、インターネットやSNSで話題のトピックス……。世の中の「今」をお届けします。
    科学

    宇宙は特別なところではない 金井飛行士寄稿(全文)

     みなさん、こんにちは。JAXA宇宙飛行士の金井宣茂(のりしげ)です。2017年12月から国際宇宙ステーションに滞在し、いろいろな宇宙実験などの任務に取り組んできましたが、いよいよ地球への帰還の日が近づいてきました。

    超小型衛星放出ミッションに参加

    • 国際宇宙ステーションのロボットアームを操作する装置の前で(JAXA/NASA)
      国際宇宙ステーションのロボットアームを操作する装置の前で(JAXA/NASA)

     先日は、日本の宇宙実験棟「きぼう」から超小型衛星を放出するというミッションに参加させていただきました。「きぼう」を利用して放出された衛星の数は、200基を超えているそうです。これまでは、大きな衛星を打ち上げるロケットに相乗りするしか方法がなく、ロケットやメインの大型衛星の都合で打ち上げが延期されたり、中止になったりと、不便が多かったようですが、「きぼう」を利用することで、確実に超小型衛星を宇宙空間に放出することが可能になりました。

     宇宙ステーションでは、補給宇宙船で運ばれた衛星放出機構(とその中に備え付けられた超小型衛星)を「エアロック」と呼ばれる宇宙空間との出入り口に設置する作業を担当しました。そのあとは管制センターからの遠隔操作により、ロボットアームを使って衛星の放出が行われます。ロボットアームやエアロック運用の効率化が進んだことで衛星放出の機会は年々増加しており、今回超小型衛星を放出したケニアやトルコ、コスタリカなど、これから宇宙開発に参入しようという海外諸国にとって、「きぼう」のエアロックは文字通り「宇宙へのトビラ」となっています。国際協力の観点でも意義の大きい、超小型衛星放出ミッションに関わることができたことを大変名誉に感じます。

    高品質のたんぱく質結晶化の実験も

     宇宙環境を使った高品質のたんぱく質結晶化実験のお手伝いをさせていただいたのも、今回のミッションのハイライトの一つとなりました。重力がない宇宙環境では、地上で作るよりも品質の良いタンパク質が得られますが、そのサンプルを地上に持ち帰って解析することで新しい薬の開発や、難病の原因究明につながることが期待されています。1回の実験機会で、より多くの種類のたんぱく質を結晶化できるようにしたり、サンプルを宇宙船に乗せて打ち上げる頻度を上げたりすることで、研究機関や企業に手軽に利用してもらえるようになってきています。

     わたしが宇宙滞在をしている期間には、2回の実験機会があり、合計46種類のサンプルを地上に送り出しました。宇宙船で届いたサンプルを運び出して結晶化装置にセットしたり、実験の終わったものを帰還・回収に向けて地上に戻る宇宙船に積み込むという作業は単純なものでしたが、一つ一つの小さな実験試料に籠(こ)められた大きな期待を想像すると身の引き締まる思いでした。

    作業はシンプル 「楽をさせてもらった」

    • 長期滞在した米露の宇宙飛行士と共に記念撮影する金井さん(下段左)=JAXA/NASA
      長期滞在した米露の宇宙飛行士と共に記念撮影する金井さん(下段左)=JAXA/NASA

     わたしが宇宙飛行士候補者として採用されたころは、「きぼう」の運用が始まって間がなく、ひとつひとつの宇宙実験が「初めての試み」で手間や労力のかかるものが多かったような印象がありましたが、ご紹介した超小型衛星の放出や高品質タンパク質の結晶化など、これまでの運用経験をもとに「日本の得意分野」といえるような有望なミッションが立ち上がり、効率化や確実性の向上が図られています。

     実際に身をもって軌道上での仕事を経験させていただきましたが、作業内容はシンプルでトラブルが少ない一方で、大きな成果が期待できるような宇宙実験ばかりで、担当の宇宙飛行士としては、これまでの先輩宇宙飛行士と比べて、ずいぶん楽をさせてもらったような、何だかヘンな気さえします。

     こういった有望ミッションについては、国内企業との協力による事業化・民営化が計画されていて、旧来の国が主体となった有人宇宙開発に代わって、宇宙ビジネスとして民間の主導による「新しい宇宙の使い方」が、今後ますます広がっていくことになります。

    「宇宙を身近に」が次のミッション

     宇宙というと、とても遠い別世界のことと感じる方が多いかと思いますが、約半年の宇宙生活を経験してみると、地上にいるときと変わらずに、何の不自由もなく元気に任務を続けることができていますので、宇宙といっても、ことさら特別なところではないという想いを強くしました。これまで宇宙飛行士しか来ることができなかった宇宙も、そう遠くない将来には、誰もが旅行できるような、より身近な場所になっていくことでしょう。

     そして、そういう将来を実現するために活動していくのが、宇宙飛行を終えたわたしの次のミッションだと考えています。これから大きく伸びていく宇宙開発の現場は、アイデア勝負のフロンティアです。宇宙飛行ミッションが終わっても、ワクワクするような新しい挑戦が待っています。

    2018年05月27日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR情報
    PR
    今週のPICK UP