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    ひとり暮らし 高齢女性はゆるくつながる

     一人で暮らす高齢者は年々増え、その7割近くを女性が占めているという。自由を味わう一方、災害や急病など、いざという時の不安もある生活。高齢化が進む築42年のマンションで、女性らが「ゆる~いつながり」を保ちながら暮らしていると聞いた。一体、どんなふうに。足を運んでみた。(持丸直子)


    井戸端喫茶は、日曜の朝ひらく

    • 日曜喫茶で、客の住民と話がはずむ森さん(右から2人目。4月、京都市右京区で)=吉野拓也撮影
      日曜喫茶で、客の住民と話がはずむ森さん(右から2人目。4月、京都市右京区で)=吉野拓也撮影

    「コーヒーでいい? 紅茶?」「ゆで卵、かごからとってくださいね」 京都市右京区のマンション「西京極大門ハイツ」。毎週日曜午前8時半~11時半に集会所で開かれている「日曜喫茶」で、客と言葉を交わしながらてきぱきとモーニングサービスを提供していたのは、住民の森房乃さん(77)。10年前の開始時からのスタッフだ。

     トーストにマーガリンかジャム、ゆで卵、飲み物が付いて100円。新聞を読みながら一人で食べる男性や、おしゃべりに花を咲かせる女性グループ。ソファでは、子連れの若い夫婦がテレビを見ながらくつろぐ。近所にも開放され、毎回30~40人が訪れる盛況ぶりだ。

    「調子どうえ?」

    • 日曜喫茶はセルフサービス
      日曜喫茶はセルフサービス

     管理組合のコミュニティ委員会が世代間の交流などを目的に運営。ボランティアの住民22人が交代で当番を務め、少数ながら男性もいる。森さんの担当は2か月に1回だが、「当番でない時も客として来ます」。知り合いの顔を見つけたら、「このごろ調子どうえ?」と体調を聞いたり、近況を伝え合ったり。「元々おせっかいな性格やから」と笑う。

    独身女性が不動産を買うのが珍しかった時代に

     西京極大門ハイツは1976年築。約180世帯のうち3割近くが65歳以上の一人暮らしで、その大半が女性だ。「子どもが独立、夫に先立たれた」という人が多いが、未婚、離婚経験者もいる。 森さんは未婚のシングル。材木卸会社の事務職として長く働いた。弟夫婦が実家で暮らすことになったのを機に家を出て、30年前にここを中古で購入。独身女性が不動産を買うのはまだ珍しい時代だったが、「職場は男性が多かったけれど、『女やから』とか『結婚したら』とか言われず、働きやすかった。家のローンを組んでも私は大丈夫、と思えた」という。

    退職してひとり 「考えても仕方ない。やれることをやる」

    • ウォーキングもご近所さんと一緒に
      ウォーキングもご近所さんと一緒に

     会社勤めの頃は忙しく、地域の活動にほとんど関わらなかった。しかし、がんを患い、58歳で早期退職してから意識が変わった。「いつ何が起こるかわからへんし、困ることも増えてくるかもしれない。でも、考えたって仕方がない。まずは自分がやれることをやらないと」。町内会の役が回ってきたことも転機となった。 顔見知りが増えれば、生活も変わる。健康作りにと一人で始めたウォーキングも、今では住民の女性2人と一緒に毎夕行う。おしゃべりしながら約1時間の日課が「元気の源です」とほほ笑む。

    負担が重いと続かない

     「一つ屋根の下の住人同士、何かあった時は助け合わないといけない」と同マンション管理組合理事長の佐藤芳雄さん(67)。全国の集合住宅で高齢化、独居化が進む。「だから、負担が少なく、気が向いたら参加できるくらいのつながりが重要なんです」。確かにそうでないと、誰もがしんどくなって続かない。

    「出ておいで」 みんなで作る手抜きの食事

    • レトルトカレーをまとめて温める
      レトルトカレーをまとめて温める

     記者がそのユニークさにひかれたのが、奇数月の第3日曜日、日曜喫茶の後に高齢者を中心とした住民の親睦団体「絆会(きずなのかい)」が開く昼食会だ。東日本大震災後、「より顔の見える関係作りを」と始まった。「徹底的に手を抜く」がモットーで、使うのは、レトルトカレーにカット野菜。住民が力を合わせて食事を準備するのは災害時にも役立つとの狙いもあるそうだ。毎回約40食をやはり100円で提供する。

     メンバーの日下部晴子さん(76)は6年前に夫と死別し、現在は一人暮らし。娘2人を育てる間はマンションや子ども会の行事に積極的に参加したが、この10年ほどは夫の介護があったり、自分も体調を崩したりして、足が遠のいていた。 「『家に閉じこもってたらあかん。出ておいで』と声をかけてもらって。今は年1回当番を務め、あとは『参加するのも協力』となるべく顔を出している。おかげでひきこもりにならずに済んでいます」。最後までここに住めたら。そんな思いも抱いているという。

    自主管理 日頃から互いに目配り

     そもそもここは、管理組合が自主管理を行っているマンションで、管理事務所に詰めているのも朝夕巡回するのも、建物を清掃するのも住民だ。管理組合は居住者すべての緊急連絡先も把握し、孤独死などを防ぐよう日々目配りしているという背景がある。囲碁将棋やマージャン、卓球などのサークル活動や、中庭で花見を兼ねたバーベキュー、餅つきなど季節ごとの祭りや行事も盛んだ。日曜喫茶や絆会は、それらの一つで、当番の住民たちがそれぞれ役割を分担し、なめらかな動作で食器を用意したり野菜サラダやカレーを盛りつけたりするのを見て、日頃のコミュニケーションがあればこその風景だと納得した。

     世話をする方もされる方も、気負いなく。そうした関係性が、住人の女性たちの自然な笑顔に表れている気がした。

    地域活動 60歳以上の6割が何らかのグループに

     一般的に、どのくらいの高齢者が地域活動に携わっているのだろう。 内閣府の「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2013年度)によると、60歳以上の6割が何らかのグループ活動に参加していた。具体的な活動(複数回答)で最も多かった「健康・スポーツ」(34%)が前回調査(08年度)より3ポイント増えたのに対し、「地域行事」は19%と5ポイント下がった。

    「いざというときに備えて」

     高齢者の住まい方に詳しい檜谷(ひのきだに)美恵子・京都府立大教授は「健康への不安も高まる中、適度な距離感を保ちつつも、いざという時には助け合える関係性作りに、意識して取り組むべきだ。拠点として使える空間があると活動も広がりやすい。マンションなどの集合住宅では、共用空間をうまく活用してほしい」と話している。

    一人暮らしの高齢女性400万人

     2015年の国勢調査によると、一人暮らしをする65歳以上の高齢者は約593万人。女性の方が平均寿命が長いこともあり、内訳は男性約192万人に対し、女性は倍以上の約400万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、40年に約540万人に上るとされる。 記者も50代独身の、マンション一人暮らし。西京極大門ハイツの取り組みには可能性を感じさせられた。森さん、日下部さんに「何より大事」と教わった「ふだんの声かけ、あいさつ」を、まずは心がけたい。(持丸)

    2018年06月08日 17時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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