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    単身70代 賃貸住宅を「貸せません」と言われて

     単身高齢者は、賃貸住宅を借りにくい――。昔からある問題だ。だが今は超のつく高齢化社会で、誰にでも降りかかる可能性のある大問題だ。体験者を訪ねた。(滝沢康弘)

    収入はあるのに、帰る部屋がない――このまま死んでしまうのかな

    • 「住まいサポートふくおか」の支援で部屋を見つけた男性(左)を訪ね、近況を聞く栗田さん(福岡市内で)
      「住まいサポートふくおか」の支援で部屋を見つけた男性(左)を訪ね、近況を聞く栗田さん(福岡市内で)

     「緊急時に連絡が取れる人がいないと貸せません」。福岡市の男性(73)は、71歳だった昨春、不動産業者に言われた。

     同居のいとこが親の介護で実家に戻り、市内の2DKのマンションを出ることに。スーパーの早朝パートで週5日働き、年金と合わせ月20万円近い収入があるのに帰る部屋がない。80代の兄には頼めず、カプセルホテルに泊まった。つい酒の量も増え、「このまま行き場所もなく、死んでしまうのかな」と思った。

     単身高齢者が部屋を借りにくいのは、大家や不動産会社に孤独死や家賃滞納への警戒感があるためだ。日本賃貸住宅管理協会の調査で、大家の約6割が高齢者に「拒否感がある」とした。

    「見守り」や「死後の家財処分」などの支援で入居を後押し

     男性を救ったのは、緊急連絡先や保証人を確保できない高齢者の賃貸住宅入居を支援する「住まいサポートふくおか」だ。福岡市社会福祉協議会などが4年前に始めた。「見守り」や「死後の家財処分」など支援メニューを提案することで、協力店と呼ばれる不動産会社を通じて家主に理解を求める。同社協の栗田将行さんは「高齢者のバックアップ体制を築き、家主さんに安心してもらう狙いです」と話す。

    • 「住まいサポートふくおか」の協力店(不動産店)の店頭に貼ってあるステッカー
      「住まいサポートふくおか」の協力店(不動産店)の店頭に貼ってあるステッカー

     4年間で約200件の入居につながり、協力店は約40社に増えた。

     男性は、埋葬や家財の処分など死後の手続きを社協に任せる契約と、月1回の見守りサービスを利用することで、家賃3万8000円のワンルームを借りられた。「どうにか生きていける」と思った。

     時々キッチンで野菜を湯がき、ポン酢をたらして酒の肴(さかな)にする。「体にいいそうだから」。酒が減り、スーパーの仕事を増やした。「働けるうちは働きたい」と話す。

    連れ合いがいた人も

     いま配偶者がいる人にも起こりうる問題だ。

     長年連れ添った夫を亡くした埼玉県の女性(67)は「2LDKのマンションは、ひとりには広すぎる」と住み替えを決めた。不動産会社で「高齢の方は借りにくい」と言われ、「どこなら借りられますか?」と聞いた。ホームネット(本社・東京)が提供する有料サービス「見まもっTELプラス」の利用を条件に、ロフト付きの1Kに入居した。

     「本日の体調はいかがでしょうか」と安否確認の電話が週2回あり、プッシュボタンで「元気です」「ちょっと体調が悪いです」を選んで応答する。孤独死などの際の部屋の原状回復や葬儀費用の補償もセットだ。女性は、「借りられるだけでありがたい。倒れて見つけてもらえなかったら大変だもの」と話す。

     入居のハードルを下げる見守りサービスが普及してきたようだ。納得する人もいるが、こんな声も聞いた。

    見守りは「安心」か「うっとうしい」か

     「センサーで管理されている感じが嫌だった」。都内でひとり暮らしの女性(73)は昨年まで住んだ高齢者専用住宅の生活を振り返る。半日ほど外出した時、センサーが長時間反応せず、警備会社に出動要請が行ったこともあった。

     昨夏、一般向けの賃貸マンションに転居した。保証会社への保証料の支払いと、緊急連絡先は求められたが、契約は成立。家賃を払えることを示すため、言われる前に通帳のコピーを出した。「先のことはわからないけれど、自由な生活が最高」

     高齢者も多様だ。生活も体調も、見守りサービスで安心するか、うっとうしいと思うかも、それぞれだ。

    「今なんとかしなければ」 高齢者専門の仲介サービスが登場

     65歳以上の人を専門とする賃貸物件の仲介サービスがある。依頼を受けて東京23区を中心に物件を探す「R65不動産」だ。山本遼社長(28)が「若い頃と同じ感覚で家を借りられる社会にしたい」と考えて始めた。

     「『高齢でも貸します』という大家さんはいます。でも、誰かに『やめた方がいい』と言われ、貸した経験がある人が少ないんです」

     契約まで3か月、半年と若い人より長くかかり、成約は月10件程度だが、つながりができた不動産会社から次の物件を紹介してもらえるケースも増えてきた。

     山本さんも、適切な見守りサービスが借りやすい環境づくりのカギだと感じている。「30年前も高齢者は部屋を借りにくかった。今何とかしなければ30年後も変わらない」と話す。

    理由は1位「家賃を下げたい」 2位「立ち退き」

     「住まいサポートふくおか」を訪れた相談者の「転居を希望する理由」から、引っ越しを余儀なくされるさまざまな事情がわかる。

     最多は「家賃を下げたい」。夫が亡くなって年金収入が減り「今までの家賃は払えないし、広くなくていい」と転居を考えるケースが多いという。

     高度経済成長期の終わり頃などに建ったアパートが、建て替え時期を迎え、「立ち退き」を求められたケースも目立つ。足腰が不安になり、低層階に移りたいという希望も多い。

    高齢者「3世代同居」は今や1割 「借りられない」はみんなの問題に

     1980年に、高齢者がいる世帯の半分を占めた「3世代同居」は、今や1割あまり。倒れた時のSOS発信や死後の身辺整理のサービスを利用するのが、現実的な選択でしょうか。
     「女が家を買うとき」(1986年)などでシングル女性の生き方を描いた作家の松原惇子さん(71)も65歳の時、ワンルームの賃貸契約をする前日に入居を断られ、母が暮らす実家に避難しました。その騒動を近著「母の老い方観察記録」に書いています。
     松原さんは、アパートに単身で30年以上住み続ける80歳代の知人の話もしてくださいました。大家さん親子2代に「ずっと住んでいてくださいね」と言われているそうです。「彼女は明るく正直で、コミュニケーションができる。扉を閉めて家賃だけ払っていても、そういう関係は築けないわね」
     人と人のつながりという基本も重要なようです。(滝)

    2018年10月26日 17時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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