撮影10年、「団地の給水塔大図鑑」著者の使命感

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団地音頭にも歌われた給水塔

 大阪市在住の公務員、小山祐之さん(36)を出版記念の個展会場に訪ねたのは今年10月。BGMに、本人秘蔵のレコード「高砂団地音頭」(作詞・高砂団地音頭制作委員会)がかかっていた。

 ♪ハアー 空にそびえる給水塔は みやこ東の名物よ

一つひとつの給水塔について語り出すと止まらない小山さん。「団地の給水塔」オリジナルTシャツを着ている(大阪市此花区の「シカク」であった個展会場で、土屋功撮影)
一つひとつの給水塔について語り出すと止まらない小山さん。「団地の給水塔」オリジナルTシャツを着ている(大阪市此花区の「シカク」であった個展会場で、土屋功撮影)

 東京都葛飾区にある、その団地は建て替えられ、給水塔はもうない。歌の制作年は不明だが、給水塔が団地のシンボルだった往時がしのばれる。今は消えゆく一方となった全国各地の給水塔を撮影し続けた10年が、405基を収録する「団地の給水塔大図鑑」(シカク出版)に結実した。

小5で初めて見た「とっくり型」

小山さんが出版した「団地の給水塔大図鑑」
小山さんが出版した「団地の給水塔大図鑑」

 小山さんは新潟県生まれ。小学5年だった1992年、引っ越した大阪市内で、初めて給水塔を見た。近所の団地に、とっくり型の大きな建造物が3基。それが何か、友だちに聞いてもわからず、子供心に「不思議だな」という印象が残った。

 団地はその後建て替えられ、給水塔は解体された。なくなってみるとまた気になって、インターネットで調べ始めた。

高度成長期の団地のシンボル

撮影旅行のきっかけとなった「とっくり型」給水塔(大阪府寝屋川市で)*掲載した給水等の写真はすべて小山さん撮影
撮影旅行のきっかけとなった「とっくり型」給水塔(大阪府寝屋川市で)*掲載した給水等の写真はすべて小山さん撮影

 給水塔は上部に設置したタンクから、重力を利用して周囲に水を送る仕組みだ。高度成長期に団地とともに多数が作られたが、ポンプの性能が上がるなど、給水技術の進歩で徐々に使われなくなり、今は姿を消しつつある。

 「呼ばれた」と言っていい出来事だろう。就職して仕事にも慣れてきた2008年春の休日、京阪電車の窓から、見覚えのある「とっくり型」の塔が見えた。

 思わず下車して行ってみた。団地は建て替え間近で人けがなかったが、古い給水塔は、青空を背にかっこよく立っていた。たまたま持っていたデジカメで写真を撮った。

 「だれにも記録されないまま、消えていくのはもったいない」と思い、各地の給水塔を写真に収めて回るようになった、それが始まりだ。

撮影時の天気や光にこだわる

3回目の訪問で撮影できた沖縄県営古謝団地の給水塔(沖縄市で)
3回目の訪問で撮影できた沖縄県営古謝団地の給水塔(沖縄市で)

 自治体などの団地一覧を参考に、ストリートビューや航空写真で場所を確認し、訪ねて回る。撮影にはこだわりがあり、天気のいい日の、正面に光が当たる時間に撮る。

 「寂しい写真になるのは、いやなんです。もう、僕の写真でしかその給水塔を見ない人がいるかもしれない。かっこいい、おもしろい、いい状態で撮っておきたい」

 そのために、天気予報や鉄道、バスの時刻表を綿密に調べて行程を練る。岐阜の団地の東向きの塔を午前中に撮るために始発に乗ることもあり、沖縄の塔は、天気が崩れて3回目の訪問でようやく撮影できた。天気のいい週末はほぼ、給水塔を訪ねている。

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)時代のおもしろいところは、マニアックな趣味でも、同好の仲間が見つかることだ。ミクシィで出会った団地愛好家たちと集い、「どの団地の給水塔が塗り替え中」「あの団地は公団の古いロゴが残っている」など、貴重な情報を交換しあって盛り上がる。たまに撮影につきあってくれる妻も、そんなつながりで出会った団地愛好家だ。

669か所を訪れ、12種類に分類

「ボックス型」給水塔(千葉県船橋市で)
「ボックス型」給水塔(千葉県船橋市で)

 これまでに669か所回った。形も色もバラエティーに富んでいて、独自に12のタイプに分類した。最も多いのは、ずん胴の「ボックス型」。

 タンクが円盤のような形をしている「円盤型」は関東に多い。ほかに、配管が見える「むきだし型」、タンクが球状の「待ち針型」などだ。東京都営住宅特有で、タンクの形が駄菓子の「フエラムネ」に似た「フエラムネ型」は、全て解体されてしまったが、図鑑には2基を収録することができた。 

円盤型。背景に東京スカイツリーがかすむ(東京都江東区で)
円盤型。背景に東京スカイツリーがかすむ(東京都江東区で)
むきだし型(神戸市垂水区で)
むきだし型(神戸市垂水区で)

待ち針型(岐阜県大垣市で)
待ち針型(岐阜県大垣市で)
フエラムネ型(東京都足立区で)
フエラムネ型(東京都足立区で)

 小山さんが調べる限り、まだ撮れていない給水塔が約250基ある。行きにくい遠隔地が多いが、時間との闘いでもある。撮ったうち103基はその後解体された。航空写真には写っていたのに、行ってみると跡形もなくなっていることがある。

給水塔のかけら(小山さんの個展会場で土屋功撮影)
給水塔のかけら(小山さんの個展会場で土屋功撮影)

 撮影に行って、ちょうど解体現場に出くわしたこともあった。悲しかったが、作業をしていた人にそっと分けてもらった給水塔のかけらは宝物だ。

 「空が澄む今が、給水塔撮影のベストシーズンです」。残りの撮影に気がはやる。

 

*あとがき 幼なじみのような給水塔が解体され、小山さんがネットでいろいろ調べ始めたのが2000年代前半。ネットが普及し、多くの人が思い思いの関心事をさかんに発信し始めたころだ。そしてミクシィで団地愛好家仲間に出会い、「日本給水党党首」を名乗り始めたのが2008年。その後、多くの人がSNSを使うようになった。マニアックにみえる興味分野でも仲間とつながれて、特殊でアツい情報がワッと伝わる。「団地の給水塔大図鑑」の帯に、都市鑑賞者の内海慶一さんの言葉があった。「全国各地の団地の給水塔を10年間も撮り歩くなんて、まったくどうかしている。どうかしている人がいてくれて、本当によかった」。だれもがそれぞれに「どうかしている人」として生きられたら、大層すてきだと思う。(編集委員 森川暁子)


54248 0 トピックス 2018/12/15 03:00:00 2019/01/22 16:17:14 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181029-OYT8I50070-T.jpg?type=thumbnail

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