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    シングルスタイル

    辛酸なめ子さんら「ソロ」を語る 「ひとりバー」から老後まで

     11月11日を「独身の日」と称してセールできらびやかに盛り上がったのは中国ネット通販業界。その前日の10日、当欄は読者と語り合う女性限定イベント「シングルスタイル女子会『独身の日』前夜祭」を東京本社でこぢんまりと開いた。ゲストが語る楽しみ方にうなずいたり、笑ったり、思わぬ質問が出たり。何かと共有しあうものの多い場になった。(年齢等は紙面掲載時のものです)

     ゲストは、ひとりであちこちを見聞して回り、漫画やコラムで描写している辛酸なめ子さんと、KADOKAWAの編集者で情報誌「おひとりさま専用Walker」を担当した中村茉依さん。参加者はシングルや、家族がいても「ひとり行動が好き」という女性約50人で、話は「ひとりで楽しむ」ところから始まった。

    人間模様が見える、ひとりパーティー

    • 辛酸なめ子さん=松本拓也撮影
      辛酸なめ子さん=松本拓也撮影

    ――辛酸さんは、ファッションブランドのパーティーにもよくひとりで参加されるとか。

     辛酸 帰るタイミングがつかめない飲み会より、好きな時間に行って、5分、10分いて帰れるパーティーのほうが気楽なんじゃないかと思って。ひとりだと、人間模様みたいなものがよく見えて面白いです。仲良さそうに見えて、一瞬だけ集まって写真撮ったらパッと離れたりとか。いろんなパリピ(パーティーピープル)がいるなと思います。

    自分が読む雑誌がない!

    • 中村茉依さん=松本拓也撮影
      中村茉依さん=松本拓也撮影

    ――中村さんが、ひとり向け情報誌「おひとりさま専用Walker」を企画したわけは。

     中村 私は「Tokyo Walker」という雑誌の編集部におりまして、誰かと過ごすことを前提にした雑誌を作り続けていて、シングルで友達も少ない自分が読む雑誌がないと思いました。実は、企画段階では「ネットで炎上しそう」とか言われたんですけど、実際去年の12月に発売してみたら、意外と共感を呼んで、重版も3回ぐらいかかりました。

    ――取材した中で、「これは」と思ったひとり遊びはというと。

     中村 「個サル」って呼ばれている個人参加フットサルは、ひとりで行きたいときにフットサル場に行って、その場にいる人たちとボールを蹴り合って帰るっていう、それだけのスポーツです。予定を合わせるのも面倒くさいし、ひとりでちょっと運動したいときに便利だなあと思いました。

     辛酸 それはコミュニケーション力が、ある程度ないと……。

     中村 しゃべらないで大丈夫です(笑)。蹴ることに集中できます。

    人を誘いにくいイベントもある

    ――辛酸さんは、ひとりで「失禁体験」っていうイベントにも行かれたんですね。

     辛酸 2016年に日本科学未来館(東京)であった、デジタルコンテンツの最先端技術が集まるイベントに行ったときに、ちょっとネットで話題になっていたんですけど、電気通信大学のまじめな学生が、尿意を感じにくくなった高齢者なんかが排尿を疑似体験するというような目的で研究している装置なんですけど。でも、そういうイベントって、誘う人がいないじゃないですか。「失禁体験、一緒に行こう」とか。排尿に集中するために、アイマスクをするんですけれども、男子学生が耳元で「よい排尿を」っていうふうにささやいて。

    ――そういうエッジの立ったものに行こうというときは、ひとりですか。

     辛酸 やっぱり、どれだけ並ぶかわからなかったりとかすると、人に付き合ってもらうのは悪いなと思っちゃうんですよね。

    ハードなアウトドア系はちょっと

    • 「ひとり活動」を語り合う辛酸さん(奥左)と中村さん(同右、読売新聞東京本社で)=松本拓也撮影
      「ひとり活動」を語り合う辛酸さん(奥左)と中村さん(同右、読売新聞東京本社で)=松本拓也撮影

     中村 辛酸さんがやってみたいけどできない活動、みたいなのはありますか。

     辛酸 皇居で草むしりなんかをする勤労奉仕団は、団体じゃないと応募できないみたいです。あとは、「ひとり登山」もしたいんですけど、もし遭難したら、と。そういうハード目なアウトドア系だと、できないっていうのはありますね。

     中村 「ソロハイク」っていうので、ひとりで山登りをしよう、というのも最近じわじわと。そんなに大変じゃない、遭難しなさそうな山で。

     辛酸 それはいいですね。

    イベント申し込みの際に書いてもらった、やってみたい「ひとり○○」一覧を見ながら――。

    けっこうお得なひとりディズニー

    ――「ひとりバー」はちょっとハードルが高いですか。

     中村 渋谷に、2人以上だと入店できないバーがあります。本当にひとりで来たお客様のみが入店できるんです。

     辛酸 じゃあ、そのマスターとしゃべらなきゃいけないんですか。

     中村 大丈夫です(笑)。外国の方や、遠方からいらしてる方、ドタキャンされて行くところがなくなった方とかが結構集っています。

    ――中村さんは、取材で「ひとりディズニー」に行かれたんですよね。

     中村 すごく混む日曜日に、ひとりでディズニーランドに行きまして、乗り物の空席に、ひとり客を優先的に入れてくれる「シングルライダー」っていう制度があるんですけれども、「ひとりで乗ります」と申告したら、人気で130分待ちの乗り物に10分で乗れた。女子高生3人組と一緒に乗って「大学生ですか」とか話しかけられて楽しかった。

     辛酸 あ、いいですね。それってたとえば、2人で来てて、別々に、というのは…。

     中村 友だち同士で来たけど、絶叫マシンに乗るときはひとりの世界だから、ひとりずつでいいですっていう方がいました。

    ひとりカラオケはストレスフリー

    ――ひとり観覧車は、ちょっと過酷では……。

     辛酸 景色は見やすいですよね、遮るものがないので。

    ――物事に集中しようと思ったら、ひとりになるのかもしれませんね。ひとりカラオケはどうでしょう。

     辛酸 行ったんですけど、なんだかすごく忙しくて。音量とかを全部自分で設定したり、機器の使い方も見たりするのに10分ぐらい経過しちゃったんですね。歌が下手なのでひとりの方がいいんですけれども、誰も聞いていないのでモチベーションというか、歌う気が起きなくて、監視カメラに向かって歌ったりとかしてました。

     中村 私も行きます。カラオケ行って、いろんな世代の人がいると、「この歌、知ってるかな」と気を使います。ひとりカラオケは、歌いたい曲を歌えて音程が外れてもいい、ストレスフリーな空間です。

     申込者に書いてもらった「シングルを巡る関心事」は、仕事、連休の過ごし方、老後など多岐にわたっていた。

    蛍光灯の交換はどうするか? いつどんな保険に入る?

     辛酸 ここには書かれてないですけど、照明器具の交換とか、そういうの大変じゃないですか。女性は背が低めなので、天井に付いている蛍光灯が切れたとき、何でも屋さんに頼んだ方がいいのかとか、思ってしまうんですよね。落ちたら危ないし。地元の電器屋さんとなんかコミュニケーションがあって付けてもらったり、あいさつしてくれる人がいたりとか、そういう地元の結束力があれば、ちょっとは、寂しくないのかもしれないですね。

     中村 私が気になるのはお金です。独身の人って、いつどのタイミングで何の保険に入ればいいんだろうっていう、漠然とした不安があって。

     辛酸 寿命も伸びてるから、お金がどのぐらい要るんだろうか、とか思いますね。

    「自分は役に立ってない」と思いそうになったら――

    • 島根・八重垣神社の鏡の池にコインを載せた紙を浮かべ、沈み方で結婚する時期などを占う辛酸さん。連れていってくれたタクシー運転手さんが「この前案内した人は38分ぐらい沈みませんでしたよ」と(辛酸さん提供)
      島根・八重垣神社の鏡の池にコインを載せた紙を浮かべ、沈み方で結婚する時期などを占う辛酸さん。連れていってくれたタクシー運転手さんが「この前案内した人は38分ぐらい沈みませんでしたよ」と(辛酸さん提供)

    ――「シングルでも、引け目を感じず楽しく暮らしたい」というようなことを書いた方もいらっしゃいました。

     辛酸 引け目みたいなものは確かにちょっとあるんですけれども、働いて税金を払ってますし。「自分は役に立っていない」とか思いそうになったら、その日一日誰かに親切にして、そういうのを積み重ねて、周りの人がちょっと癒やされたり、気分がよくなったりしたら、自分の存在価値を感じられる。あまり卑下しすぎないようにしています。

     中村 この本、「おひとりさま専用Walker」を作るまでは、ひとりでご飯を食べに行くのがけっこうおっくうだったんです。「あの人ひとりで来てる」みたいな視線を感じることがすごく恥ずかしいというか。でも、実際に取材を始めてみると、けっこう「カウンター席にひとりのお客様にたくさん座ってもらいたい」とか、「ひとりのお客様には、量を少なくして出しています」っていう話を聞いたり、焼き肉も1枚から頼めたり、そういうサービスがたくさん増えていて、行きづらいと思ってたのは私たちだけなんだな、と思いました。

    これ、ニセの友だちかもしれないし……

    ――「寂しくなったときはどうしたらいいですか」という声もありました。

     中村 私はひたすら家に引きこもって、快適に過ごすためのグッズを集めています。SNSで周りの人たちが複数人で楽しんでいる写真を見て、自分はそれに比べて寂しいなって思うこともあるんですけれども、最近は、ワイワイがやがやしてる写真を撮ってくれるためだけの業者みたいなのがあるらしいんですよ。

     辛酸 ニセの友だちとか。

     中村 お金を払ったら、ニセの友だちとして来てくれて……。なんか、この人たちもどうせ、そういう風にやってたりするんじゃないか、みたいに考えを巡らせて(笑)。何なら、最終的に、自分も利用したらいいかなとか。

     辛酸 私は守護霊がいるから大丈夫です(笑)。そっちのほうに意識を向けると、寂しさは和らぐと思います。みなさんが自問自答だと思っているときも、実は守護霊が答えてくれてたっていうのもあるかもしれないですよ。

    自分で決めてシングルなのですか?それとも……

     質疑応答コーナーでは、「周囲がひとり行動を理解してくれない」「マンションを買うことについて」などの質問が相次いだ。最後に、横浜市の会社員の女性(50)が手を挙げた。

    • イベント会場の入り口
      イベント会場の入り口

     質問者 結婚しないと決めたわけじゃないんですけど、結果的に今はシングルです。みなさんは、どういう感じの方が多いんですか。今、老後がすごく心配で。結局子孫がいないって……ちょっと重い話ですけど。

    ――では、会場のみなさんに二択でお聞きします。「自分で決めてシングル」か、「結果としてシングル」か。

     挙手してもらうと「自ら決めてひとり」は少数派で、「結果としてひとり」が多かった。

    ひとは今の瞬間でしか生きられない

    「ひとりだからできない」の思いは捨てて

     辛酸 老後は不安ですが、家族や子孫がいても、介護施設に誰もお見舞いに来てくれない人もいる。それぞれの人が、ひとりで自立して最後まで生きていくという思いでいった方がいいと思います。結構先のことを心配してしまうとネガティブなものを引き寄せてしまう。人は今の瞬間でしか生きられないので、瞬間瞬間を前向きに、ポジティブに、いい方に生きていれば大丈夫なように思っています。

     中村 先のことは、私自身も不安ですけど、取材をしていて、ひとりでできないことって、もはやもうないなと思っていて、ご飯も、遊びも、旅もそうなんですけど。「ひとりだからこれできない」という思い込みを捨てて毎日を充実させたいです。

    ――本当にその通りだと思います。何かやりたいことがあったとき、ちゃんとひとりでも一歩が踏み出せる世の中になったらよいなと思います。今日は本当に、ありがとうございました。

    ひとりをプラスに考えたい

     参加者に、感想を聞いた。

     最後に質問した女性は、「お話を聞いて、自分には、ひとりで自立して最後まで生きていく覚悟ができていないから悩んだり戸惑ったりしているのだと気付きました」と話していた。

     兵庫県から参加したパートの女性(54)は「ひとりも、友達と過ごすのも好き。『ひとり』をプラスに考えるための具体的な話を聞けたので、今後生かしたいです」。

     京都府の大学4年生(21)は、大学でシングルについて研究している。「自分はひとり旅が好きで、ポジティブな楽しみ方しか知らなかった。皆さんの話を聞いて、いろんな形の『ひとり』があると知りました」と話した。

    辛酸なめ子

     しんさん・なめこ 漫画家、コラムニスト。読売新聞夕刊に「辛酸なめ子のじわじわ時事ワード」を連載中。著書に「辛酸なめ子の現代社会学」「魂活道場」、小説「ヌルラン」など。44歳。

    中村茉依

     なかむら・まい KADOKAWA「Tokyo Walker」編集者。担当した「おひとりさま専用Walker」が話題に。12月3日には全国の情報を集めた新刊「おひとりさま専用Walker2019」を発売。29歳。

    編集長(司会者)あとがき

    ひとりもいろいろ 迷いながらやってます

     シングルスタイルのページを作りながら一番考え込むのは、記事の「塩梅(あんばい)」です。「ひとりで楽しい」をもっと強調しようと思うこともありますが、私のようにこじれたシングルの思いが宙に浮く気がするし……。迷って筆致もよく変わります。

     イベントでは、辛酸さんと中村さんが、ひとり活動の楽しい話で盛り上げつつ、「引け目を感じる?」などのネガティブな問いにも正面から答えてくださいました。会場の質問もあり、さまざまな思いが混ざり合ったひとときでした。

     多様な「ひとり」がいて、「ひとり」の中にも多様な面があります。引き続き迷いながら、いろいろチャレンジしようと思います。ご意見、ご要望をお待ちしております。(森川暁子)

     イベントの動画はヨミウリ・オンラインのこちらで。

     (2018年11月17日夕刊掲載)

    2018年12月13日 18時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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