「移住女子」に会いに行きました

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 シングルって、根無し草のような心もとない感じがある気がしていた。33歳。自分はどこかに「根」を張れるだろうか――と考えたとき、都会から地方へ移住する独身女性たちが気になった。移住先を訪ねた。(手嶋由梨)

何者かになろうと、ガチガチに力が入っていた

古民家でインドカレー店を営む平野敦子さん(左、福岡市中央区で)=貞末ヒトミ撮影
古民家でインドカレー店を営む平野敦子さん(左、福岡市中央区で)=貞末ヒトミ撮影

 福岡市・天神の繁華街から2駅、中央区平尾の路地裏にある古民家の扉を開けると、スパイスの香りが鼻に飛び込んできた。

 インドカレーの店「floatan(フロータン)」オーナーの平野敦子さん(46)は2016年、東京都調布市から移り住んだ。

 長崎生まれ。父が転勤族で、福岡は高校、大学時代を過ごした土地だ。就職した大分県のデザイン会社が東京進出する時「行きたい」と手を挙げた。当時28歳。

 「一度は住みたい」と思っていた東京は、刺激にあふれていた。フリーのウェブデザイナーに転身後も仕事は順調だったが、人がひしめく中で暮らし、勤めていた時以上に顧客に気を使うようになっていた。

 「頑張らなきゃ」「人の役に立たなければ自分の価値は上がらない」。何者かになろうとガチガチに力が入っていた。

自分が快いと思える生き方を

インドカレー店floatan
インドカレー店floatan

 40歳の時、脳腫瘍(しゅよう)が見つかり、手術前に「聴覚を失うかもしれない」と説明を受けた。障害は残らなかったが、「この世には考えてもどうにもならないことがある」と身にしみた。

 「私自身が『快い』と思える生き方をしよう」と決めたら肩の力が抜けた。

 一から始める気持ちで福岡へ。部屋を探している時、壁も畳もボロボロの空き家を見つけた。資金を集めて改装し、開店したのが昨年6月。趣味で集めたスパイスを調合して作るカレーには自信があった。

 クミンやブラウンマスタードをいためる時に、立ち上る香りが快い。

 基本メニューは、ひよこ豆のカレーとチキンカレーを盛ったプレート1種類。手間をかけた味わいと、平野さんの柔らかい人柄にひかれ、食事時を過ぎても人が来る。今や、街の隠れた人気店だ。

乗るべき流れを見つけたら、身一つで飛び込む

 てっきり、ここに根を下ろすんだと思いながら聞いていたら、平野さんは「何年かたったら、別の場所に移っているかも」と笑った。え? 「乗るべき流れを見つけたら、また、身一つで飛び込むと思うんですよ」。店に執着する様子はみじんもない平野さんの笑顔に、ただ圧倒された。

もう勢いで引っ越しちゃった

イルカを追って移住した高崎ひろみさん(長崎県南島原市の島原湾で)=秋月正樹撮影
イルカを追って移住した高崎ひろみさん(長崎県南島原市の島原湾で)=秋月正樹撮影

 「あそこに赤ちゃんイルカが見えますよ」

 東京から熊本県天草市に昨年4月に移住した高崎ひろみさん(40)は、イルカウォッチング船の上にいた。

 東京生まれで、看護師として、病院や老人ホームで働いていた。子どもの頃からイルカが好きで、イルカに会うために国内外を旅するのが趣味だった。

 天草では、沿岸でたわむれるイルカに高い確率で会える。イルカのために何かしたくて、市の起業創業・中小企業支援センター(通称・アマビズ)に入った。

 内山隆センター長(52)からイルカウォッチング船の組合長を紹介されたことをきっかけに付き合いが広がり、「イルカが呼んでるよ」と何度も移住を誘われて、最終的には「もう勢いで引っ越しちゃった」。

 イルカウォッチング船でガイドをしながら、ウェブでイルカ情報を発信する「天草イルカラボ」を設立。勉強会や講演に走り回る。

10年後の私、どこで何をしているのかとても楽しみ

 「天草に、イルカがずっとすみ続けてほしいんです」と話す高崎さん。「じゃあ、高崎さんも天草に腰を据えるんですね」と聞いてみた。

 「今は天草にいて、イルカが私の人生のど真ん中にある。でも、50歳になった私のど真ん中に何がいるかは、わからないなあ」。自分のことなのに、面白そうに言う。「どこで何をしているのか、とても楽しみ」。その目は、きらきらしているのだった。

今も「旅の途中」だった

 移住が居場所探しのゴールかと思ったら、2人には今いる所も「旅の途中」だった。仕事に結婚、子育て。そうした「よし」とされるライフコースにとらわれず、「快い」とか「人生ど真ん中」とか、自分の価値観を信じてかじを切る。その軽やかさがまぶしく、話を聞きながら、ガチガチに入っていた肩の力が少し抜けた。(手嶋)

…◇…◇…◇…

成功の秘訣は下調べと柔軟性

 1000人以上の地方移住者と交流し、「移住女子」(新潮社)の著書がある編集者の伊佐知美さん(32)は、「シングル女性の移住は増えているように思います。身軽なのは確かで、女性はアクティブになりました」と話す。

 「事前に何度も足を運んで地域の人と交流し、ライフスタイルを知る。下調べと柔軟性が成功の秘訣(ひけつ)」とも。自治体などが用意した住宅を借りて短期間住む「試住(しじゅう)」もおすすめだ。

 先輩移住者の暮らしの紹介など、移住お役立ち情報をウェブで発信している民間の「福岡移住計画」(福岡市)も、メンバーの多くが関東からの移住者。ディレクターの窪田司さん(30)もその一人。「九州の人は地元愛や、地域を良くしたいという思いが強いと感じた。最初は人と人との距離が近く戸惑うかもしれないが、私たちに気軽に相談してほしい」と話している。

移住相談 5割が20~30代

 認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京)への移住相談件数は年々増加している。希望地域は、東京から近い長野県、山梨県、静岡県がベスト3だ。

 年齢別では、20~30代の割合が増えており、2017年は5割に達した。

 国土交通省の17年度の意識調査でも、東京、大阪、名古屋の3大都市圏に暮らす各世代のうち、20代の4人に1人が地方移住に「関心がある」と回答している。

◇2017年の移住希望地域ランキング◇

(認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが来場者ら8498組にアンケート)

  1位 長野県
  2位 山梨県
  3位 静岡県
  4位 広島県
  5位 新潟県
  6位 福岡県
  7位 岡山県
  8位 福島県
  9位 宮崎県
 10位 富山県

 お便りはこちら 〒100・8055(住所不要)読売新聞東京本社編集委員室「シングルスタイル」係、ファクス03・3217・8029、メールは こちら

60324 0 トピックス 2019/01/15 18:00:00 2019/01/15 18:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190111-OYT8I50066-T.jpg?type=thumbnail

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