[New門]貿易戦争 守るは「習近平」

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 中国政治を分析し、理解するための鉄則がある。それは、共産党政権の動きを、「一党独裁を守る」という、彼らにとって最も切実な利益を基準にして観察することだ。米中対立での中国の言動は、迷走しているかに見えて、政権防衛という線で首尾一貫している。

民衆の血の復讐 恐れる共産党

 30年前の1989年、軍によって民主化運動を鎮圧し(天安門事件)、一息ついた中国共産党に、またも激震が走った。

 東ヨーロッパ諸国の共産党独裁政権が、民主革命で将棋倒しのように倒れたのだ。その時、ルーマニア大統領処刑の無残な画像が世界に流れ、中国の指導者たちは凍りついた。

 「あれが中国共産党のトラウマになった」と古参党員は話す。国民を弾圧する政権にとって、独裁の終わりとは、民衆による血の復讐ふくしゅうの始まりに見える。

 民を恐れる党は、それから二つの策を、同時に、全力で進めた。改革で経済発展を促して国民を豊かにする懐柔策と、政権批判を力で封じる抑圧策だ。

 経済発展を支えたのは、実は米国だ。米国は、中国の政治改革を期待し、テロとの戦いでは中国の協力を必要とした。中国は、米国がリーダーだった自由貿易体制の一員として認められ、外国の技術を導入し、米国にモノを売りまくった。

トランプ氏の波状攻撃 じっと我慢

 結果はどうなったか。

 米国の統計によれば、2018年、米国の中国からの輸入額は約5400億ドル、逆は約1200億ドルだった。すさまじい不均衡だ。

 しかも、現在の習近平シージンピン体制は、政治改革どころか、豊富な資金を使って抑圧を強めた。軍事、経済、海洋秩序などの分野でも、手段を選ばず、米国に挑戦する姿勢をあらわにした。

 トランプ米大統領は許さなかった。18年、中国製品に高い関税をかける貿易戦争を発動し、不公正な制度の是正も迫った。中国軍との関係が指摘される通信機器大手企業を締め出した。激しい波状攻撃である。

 だが、中国側はじっと耐え、決して交渉の席を離れようとしない。

 彼らの脳裏には、悪夢のシナリオがある。対米交渉が決裂し、国内経済が失速、「食べられなくなった人々が乱を起こす」(党関係者)ことだ。国民を黙らせ、党を守るには、なお経済発展が必要で、今、米国とけんか別れはできない。

「権威第一」

 他方、共産党政権は、米国の関税引き上げには同じ方法で対抗している。強い態度の背景には、「習国家主席が屈服した印象を国民に与えてはならない」という危機意識がある。

 独裁政権は、指導者の権威を大いに高めて人々に服従を強いる。怒れる民衆が指導者を堂々と批判し始めると、即、非常事態だ。「弱腰」外交はできない。

 まして、強国の夢を国民に見せながら、圧倒的な権力を握った習氏だ。妥協はより難しい。習氏は、貿易戦争の早い収束を望んでいるが、国民には、強い指導者として「自力更生を堅持せよ」と号令している。

 米中対立での中国の策は、方向性がばらばらに見える。だが、一つひとつの意図をたどれば、ほとんどすべて、「党を守る」という中心点に行き着く。

 日本との関係改善や国内経済対策など他の問題でも、同じ法則があてはまる。

 30年前のルーマニア大統領の姿を、共産党は今も忘れてはいない。

[DATA]覇権かけた攻防

 トランプ米大統領は、中国が米国の知的財産権を侵害しているなどとして、昨年7月以降、3度にわたって、合計2500億ドル相当の中国製品に対する関税引き上げを実施した。中国側も1100億ドル相当の米国製品の関税を引き上げた。

 6月29日に行われた米中首脳会談で、トランプ氏は、3000億ドル相当の中国製品に対する第4弾の制裁関税発動を当面見送ると表明した。安全保障上の脅威があると見なす中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」に、米企業が製品を売ることも認めた。米中貿易戦争は、覇権を巡る攻防でもある。双方は協議決裂を避けたが、対立の解消は容易ではない。

ルーマニア大統領処刑=1989年、ソ連の支配下にあったポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニアの東欧各国の独裁政権が、民主革命によって相次いで倒れ、東西ドイツを隔てたベルリンの壁も崩れた。ルーマニアでは、国外逃亡を図ったチャウシェスク大統領夫妻が逮捕され、軍事裁判を経て銃殺された。

編集委員 杉山祐之 1990年代から特派員として、北京に計15年ほど駐在。今年4月から台北に常駐。

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688605 0 国際 2019/07/12 16:40:00 2019/10/07 11:13:06 2019/10/07 11:13:06 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190712-OYT1I50093-T.jpg?type=thumbnail

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