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世界に感染を広げた新型コロナウイルスはようやく勢いを減じたように見える。米欧と日本などは「コロナ後」を見据え、日常の回復と経済の再生をめざして動き出している。
コロナ禍は特に米欧に深刻な被害を与えた。世界一の国力の米国が最多の犠牲者を出し、同じアングロサクソン系の英国が続く。フランス、イタリア、スペインも未知の伝染病に対する抵抗力の弱さを露呈した。
フランス有数の知識人で歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は事態をどう受けとめているのだろう。3月中旬にパリを離れ、仏北西部ブルターニュの別宅で妻子とともに過ごしているという。スマートフォンの対話アプリを通じ、思いを語ってもらった。
(編集委員 鶴原徹也)
アングロサクソン圏の英米、被害に違い

フランスは5月10日まで2か月近く外出が厳しく制限されました。人々はコロナ禍の囚人になる一方で、社会生活の停止に伴い、常日頃の心配事からは解放された。
私は1968年の5月革命を思い出します。反体制の学生反乱に労働者が呼応してゼネストを打ち、社会がマヒする中、人々は日々の気掛かりを忘れたものです。
非常事態宣言が解かれ、外出制限が緩和された今、人々はまるで感染が終息したかのように振る舞い始めている。日常への回帰と言えますが、それは現実の問題に改めて向き合うことを意味します。
まずはコロナ禍の総括です。
10万人当たりの死者数を基準にして私は考えます。先進諸国の感染状況から「重度」の国々と「軽度」の国々に二分できます。

重度で最も悲惨なのは80人超えのベルギー。スペイン、英国、イタリアが50人台で続き、フランスは40人ほど。米国は約30人です。
軽度のうち1人以下は韓国、日本、シンガポールなど。コロナ禍の猛威に震えた欧州にあって約10人のドイツ、10人を切るオーストリアは例外的に軽度といえる。
軽重の違いは文化人類学的に説明できます。重度の国には個人主義とリベラルの文化的伝統がある。軽度の国は権威主義か規律重視の伝統です。中国もそうです。概して権威主義・規律重視の伝統の国が疫病の制御に成功しています。
英米、つまりアングロサクソン圏は近代以降、世界を主導してきました。私は国際秩序を考える時、英米をひとくくりにします。ただ、コロナ被害では事情が違う。英国はスペイン、イタリアに近い。
また、米国は州によって大きく異なる。前述の通り全米は30人前後ですが、州別で最も深刻なニューヨークは約150人にも及ぶ。北東部は重度です。南東部のフロリダや西海岸のカリフォルニアはドイツ並みです。米国自体、ひとくくりにできません。
コロナ禍の特徴は高齢者の犠牲者の多さです。フランスの場合、死者の8割は75歳以上。エイズの犠牲者の多くが20歳前後だったのと対照的です。
冷酷のそしりを恐れずに歴史人口学者として指摘します。
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