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【リオデジャネイロ=淵上隆悠】南米コロンビアで、外来種のカバが増えている。かつて「麻薬王」と呼ばれた男が輸入した4頭の野生化がきっかけだ。1月に生態系への影響などを懸念する生物学者らが論文で駆除の必要性を指摘し、議論を呼んでいる。

カバは本来、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南にのみ分布する。しかし、コロンビアなどの生物学者が学術誌「バイオロジカル・コンサベーション」で発表した論文によると、北西部を流れるマグダレナ川で現在、80頭ほどが生息している。
事の発端は、1980年代に世界最大の麻薬組織と言われた「メデジン・カルテル」の首領パブロ・エスコバルが川沿いの街、プエルトトリウンフォに私設動物園を設けたことに遡る。当時、米経済誌フォーブスの長者番付に登場するほどの資金力を誇ったエスコバルは、私設動物園で違法に輸入した動物を飼育していた。その中に、米国の動物園から取り寄せたオス1頭、メス3頭のカバがいた。
93年12月、エスコバルはコロンビア国内で治安部隊に射殺された。当局は武器や財産を押収し、動物を他の動物園に移したが、輸送費がかかるなどの理由で4頭のカバは放置された。周辺に天敵となるような動物はおらず、自由の身となったカバは、その数を増やしていった。

論文によれば、このままでは、カバは2034年頃に1400頭前後にまで増殖する。マナティーなどの在来種を脅かす上、水質の変化で漁業にも影響が出るという。遭遇した人が襲われるケースもあり、昨年5月には45歳の男性が重傷を負った。論文では「根絶に向かう唯一の方法は、かなりの数を間引くことだ」と結論づけている。
一方で、カバの駆除には異論も出ている。
川沿いに住む女性は「カバは私たちの経済、生活の一部だ」とSNS上で共存を訴えている。地元メディアによると、周辺にはカバグッズを並べる土産店もあり、確かにカバは欠かせない観光資源のようだ。09年に1頭が射殺された際も、現地では抗議活動が起きたという。
国際的な動物愛護団体は、「より思いやりのある別の方法がある」として、避妊などによる数のコントロールを主張している。